年俸制でも「割増賃金の支払」は必要!裁量労働制を導入するときの注意点まとめ

雇用・労務関係の法律

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年俸制を採用しよう…どんなことに気を付ければいいのか

自社の社員にも「年俸制」を採用しよう!年俸制にすれば、残業代などを支払わなくてもよいのではないかと思われるかもしれません。

しかし、一般的に思っている「年俸制」には、正しくないことが多々あります。

年俸性については、以前、私のブログでも解説(【年俸制と法律】IT企業でじわじわ増えつつある給与の「年俸制」の注意点。)しました。

今回は、スタートアップやベンチャー企業向けに、年俸制を採用するときの注意点を解説していきます。

年俸制でも、割増賃金の支払は必要

労働基準法上、時間外労働、深夜労働または休日労働をさせた場合には、割増賃金を支払わなければなりません。これは、年俸制でも同様です。

「年俸制を採用した場合には割増賃金を支払わなくていいよ」という法律は、存在しません。

よって、年俸制によって給与を定めた場合においても、会社としては、労働時間を管理して、割増賃金を支払う必要があるのです。

なお、労働基準法上、管理監督者や機密事務取扱者等については労働時間、休憩および休日に関する規定の適用が除外されます(ただし、深夜労働の割増賃金は支払いが必要です)。

また、いわゆる裁量労働制を適用した労働者については労使協定等で定めたみなし労働時間を基準として賃金を支給すれば足りるといった例外があります(ただし、深夜労働および休日労働の割増賃金は支払いが必要です)。

しかし、これらの制度は月額制の場合にも共通に適用されるルールであり、年俸制についてもこれらのルールに沿う範囲で割増賃金の支給が減免されるにすぎず、年俸制を採用したことにより当然に割増賃金の支払いが不要となるわけではありません。

年俸制にみなし残業代を含める形とする場合の注意点

上述したとおり「年俸制」であっても、法律上は割増賃金の支払義務があります

そのため、労働時間にかかわらず、残業しても年俸額より多くは支払わないという運用は、労働基準法に違反することになります

もっとも、年俸にいわゆるみなし残業代を含める形として、みなし残業代を超えた場合にのみ、その差額分を支払うとすることは可能です。

厚生労働省の通達でも、「年俸に時間外労働等の割増賃金が含まれていることが労働契約の内容であることが明らかであって、割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とに区別することができ、かつ割増賃金相当部分が法定の割増賃金額以上に支払われている場合は、労働基準法第37条に違反しないと解される」としています。

年俸において、みなし残業代を含める形とする場合の注意点は、基本的に月額制等においてみなし残業代制を採用する場合と同様である点です。

有効性が認められるための具体的な要件は以下のとおりであると解されています。

  1. 基本給のうち、割増賃金にあたる部分が、明確に区分されて合意がされている
  2. 労働基準法所定の計算方法による額がその額を上回るときは、その差額を当該賃金の支払期に支払うことが合意されている

年俸制において「賞与」は扱いは?

年俸制において、年俸額の16分の1等を毎月支払って、残額を賞与という形で支払うといったヶ-スも多く見受けられますが、割増賃金の算定基礎額(時間単価)の算定にあたっては、このような賞与の取扱いに注意が必要です。

賞与は、通常「1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」に該当し、割増賃金の算定基礎額から除外されます。

しかし、厚生労働省による労働基準法の解釈上、「賞与とは支給額があらかじめ確定されていないものをいい、支給額が確定されているものは賞与にみなさない」とされています。

あらかじめ年俸額を確定してその一部を「賞与」として支払う場合には、「賞与」を割増賃金の算定基礎から除外することができずに、「賞与」を含めた金額を年間の所定労働時間で割って、割増賃金の算定基礎額(時間単価)を算定する必要がある点に注意が必要です。

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