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海外取引する場合の注意点とは
現在、日本から海外に向けてサービスをする事業者が増えてきました。
一口に海外取引といっても、その形はさまざまです。海外企業から商品やサービスを購入することもあれば、反対に海外企業に対して商品・サービスを売ることもあります。
さらに、海外企業との間で代理店契約やライセンス契約を結んで、日本国内あるいは外国で事業を行なうこともあるでしょう。海外に現地法人を立ち上げて、海外での生産や販売を行なうという方法もあります。
そこで、スタートアップ・ベンチャー企業が、海外取引を行う上で、法律的に注意するべき点解説します。
(1)法律・商慣習の違い
海外取引を行なう際に、最初に理解しておくべきことは、日本と海外とでは法律や商慣習が異なることです。
国・地域が変われば法律も変わります。日本の法律と驚くほど異なっていることがありますので注意が必要です。
さらに、商品売買の際にはウィーン売買条約という条約が適用される場合もあり、やはり日本国内での取引とは適用される法律が異なることがあります。
法律の違いに加えて注意しなければならないことは、商慣習の違いにより、日本では常識であることが海外では非常識となってしまうことです。
日本国内の取引であれば当然の前提とされていることであっても、海外企業と取引をするとその前提が通用しないことがあります。
たとえば、日本国内の取引であれば代金を後払いにすることも少なくありませんが、国によっては代金は前払いであることが当然ということもあり、このような違いを理解していないと代金支払い時期をめぐってトラブルとなってしまうことがあります。
このように、海外取引をする際には、法律や商慣習が異なることを前提として、しっかりとその内容を調査したり、細かいところまで取引相手の認識を確認したりする作業が重要になります。
(2)契約書の重要性
法律・商慣習の違いがあることを理解したら、その違いによるトラブルを防ぐ手段を講じなければなりませんが、その手段が契約書です。
取引をする際に契約書が重要であることはすでに説明したとおりですが、海外取引の場合には重要度がさらに大きくなります。
それは、(1)で説明したとおり、商慣習の違いによって相手との間で当然とされる前提がなかったり、コミュニケーションにズレが生じたりすることから起こるトラブルを防ぐという機能を契約書がもっているためです。
そのため、海外取引の契約書では細かすぎると思われるくらい細かいこと、当たり前と思われることまで記載しておく必要があります。実際、海外取引の契約書は国内取引の契約書に比べて分量が多いことがほとんどです。
国・地域をまたぐ取引であることにより、いずれの国・地域の法律が適用されるか(これを「準拠法」といいます)を明確にしておくことも重要です。
日本国内の取引であれば、当然に日本の法律が適用されることになりますが、海外取引ではそうはいきません。
どの国の法律が適用されるかについてトラブルとならないようにするため、当事者間で合意した準拠法を契約書に規定しておくことが重要です。
準拠法の決め方としては、日本法、相手国法、第三国法という三つのパターンがあります。日本の会社にとっては日本法が最もなじみがあり、理解しやすいと思いますが、取引相手も同様の理由で相手国法(自国の法)を準拠法とすることを希望してくることがあります。
その場合に、日本法でも相手国法でもない第三国の法律を準拠法とする方法もあります。
(3)代金回収方法の検討
最後のポイントは、自社が商品・サービスの売り手の場合には、代金回収方法をしっかりと検討しておき、できる限りの対応を契約書に盛り込んでおくことです。
会社は事業によって売上を上げなければなりませんので、代金回収が重要であることは国内取引も海外取引も変わりませんが、海外取引の場合は国内取引以上に実際の代金回収が難しいことがほとんどです。
というのも、海外企業と取引をした場合、その海外企業が代金を払わない時には、最終的に訴訟等の法的手段を取るほかありませんが、そもそも日本で訴訟を提起できるのか、それとも相手の国で訴訟をしなければならないのかという問題があります。
さらに、訴訟で勝ったとしても、取引相手が代金を支払わない場合には取引相手の資産から強制的に回収する必要がありますが、取引相手の資産が海外にある場合にはその海外資産から回収するためには高いハードルがあるのが現実です。
このように、海外取引で代金を回収することは容易ではなく、いざという場合に備えて事前によく検討し、対策を取っておかねばなりません。
具体的には、以下のようなことを契約書に盛り込んでおくことが考えられます。
- 代金を後払いではなく前払いにする
- 銀行の信用状(L/C)を出してもらう
- 保証金の差し入れ等の担保を取る
また、紛争となった場合に備えて、どのような紛争解決手段を取るべきかを契約書で定めておくことも重要なポイントです。
相手国の裁判所にしか提訴できないというのは最も負担が大きいため、可能であれば日本の裁判所に提訴できるようにしておくとよいでしょう。
そのほかの方法としては、訴訟ではなく仲裁を利用するというものもあります。
ただし、仲裁は仲裁地や仲裁機関をどうするか、仲裁人をどのように選ぶかということまで決めておかないと、結局仲裁を開催するまでに時間がかかったり、トラブルとなることがあるため注意が必要です。