【解説】AIが創作したものは著作権や知的財産権の対象になるのか【2019年12月加筆】

事例検証

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AI・ディープラーニング

AIがビジネスで活用される場面が多くなっています。AIの技術を支えているのが「ディープラーニング」です。

「ディープラーニング」は、与えられた情報を元に学習し、自律的に法則やルールを見つけ出す手法やプログラムを一歩進めたものです。

ディープラーニングでは、学習する事項も、AI自身で決めることができます。自律型AIといわれるように、まさにAI自身が決めて学習するというものです。このディープラーニング技術が発展したおかげで、AIの精度が飛躍的に向上したと言われています。

ビジネスが、AIを活用するに当たって、法律上問題となるものの一つとして、著作権などの知的財産権の問題があります。そこで、今回は、AIと知的財産権の問題を解説します。

AIと著作権の問題

今から、3年ほど前に、17世紀のオランダ画家・レンブラントの画風を機械学習や顔認識で分析、3Dプリンタを使って、レンブラントの作風をまねた新しい作品が生み出されました。

AIには、当分、クリエイティブなことは無理と言われていましたが、すでに、AIにもクリエイティブなことが出来てしまっています。

創作活動に必要なこと、問題になるのが、著作権をはじめとする知的財産権の問題です。

AIが生み出した著作権は、日本の法律ではどのような処理がなされるのでしょうか?

AIが創作したコンテンツの種類

AIコンテンツが生み出したコンテンツについて、そのコンテンツが、著作権法上の「著作物」(著作権法2条1号)にあたる場合には、そのコンテンツには、著作権が発生します。

著作権が発生すると、第三者が、AIで創作したコンテンツを使用するときには、著作権者の許可が必要になります。

そこで、AIが創作したコンテンツについて、著作権が発生するのかが問題になります。AIで創作したコンテンツといっても、AIの関与の度合いによって、異なってきます。

この点については、2016年4月8日(金)、知的財産戦略本部の報告では、創作物について以下の3パターンに整理されました。

  1. (AIが関与せず)人による創作
  2. AIを道具として利用した創作
  3. AIによる創作

次世代知財システム検討委員会 報告書(案)』より引用

パターン①は、人が創作をしているため、当然に著作権により保護されます。問題になるのは、パターン②と③の場合です。

この場合に、AIが関与したコンテンツが著作物に該当するのかを検討していきましょう。

AIが関与したコンテンツは、「著作物」に該当するか

まず、日本の著作権法で「著作物」とは、以下のように定義(著作権法2条1号)されています。

思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

この「創作的に表現したもの」という要件ですが、これは、高度なオリジナリティまでは、必要ではなく、一般の人が制作する絵、写真、文章でも「創作的に表現したもの」と言えるとされています。

AI(人工知能)が生み出したコンテンツも、この「創作的に表現したもの」に該当します

問題は、「思想又は感情」という部分です。つまり、AI(人工知能)に、「思想や感情」はあるのかということが問題となるのです。

この手の議論から昔からされており、コンピュータを使った創作物が著作物に当たるかについては、1993年の文化庁・著作権審議会に、『著作権審議会第9小委員会(コンピュータ創作物関係)報告書では、次のように書かれています。

  • 人がコンピュータを道具として使えば著作物となり得る
  • 創作過程において人の創作的寄与が必要

このように、現在の日本の立場としては、著作権法上の著作物と認められるためには、あくまで人間の関与が必要で、人間が関与して創作したコンテンツのみが著作物になるというものです。

パターン②は、人間がAIを道具として利用している以上、人間の関与があるため「著作物」といえ、著作権により保護されます。

人間が、AIに創作指示をするだけであるパターン③は、どうでしょうか?人間がAIに創作指示をしている点で、「人間の関与がある」と言えるのでしょうか?

上記の通り、著作物として保護されるためには、「思想又は感情を創作的に表現」されていることが必要です。

そして、人間が、AIに創作指示をするだけでは、コンテンツを作成したのは、AIということになってしまい、そのコンテンツに人間の思想や感情が反映されているとは言えません。したがって、パターン③は、著作物に該当せず、著作権法により保護されないことになります。

最初に述べた、レンブラントの新作は、おそらくパターン③にあたります。よって、日本で同様にAIコンテンツが生み出された場合、そのコンテンツは著作権により保護されないことになるのです。

著作権として保護されない場合のAIコンテンツ

著作権により保護されないコンテンツは、誰でも、フリーに利用できることになります。

つまり、パターン③のAIコンテンツについては、誰でも、自由に利用することができ、AIに創作指示をした人間が、利用料の請求や使用の差し止めなどをすることはできないのです。

そうなってしまうと、AIに創作指示をして、コンテンツを生み出した人が、報われません。AIで新たなコンテンツを創作指示するというモチベーションがなくなる可能性もあります。

この点については、政府の知財計画2016では、次のように書かれています。

すべての「AI創作物(著作物に該当するような情報)を知財保護の対象とすることは保護過剰になる可能性がある」としている一方で、「フリーライド抑制等の観点から、市場に提供されることで一定の価値(ブランド価値など)が生じたAI創作物については、新たに知的財産として保護が必要となる可能性があり、知財保護の在り方について具体的な検討が必要である

つまり、報告書では、「AI創作物を作ったこと」ではなく「AI創作物を世に広めて一定の価値(ブランド価値など)を生じさせたこと」に対して権利を付与する方向性が打ち出されました。

そして、この報告書では、パターン③のAIコンテンツの保護について、「商標、または不正競争防止法の商品等表示の保護に類するような仕組みが想定される」と明記されています。

パターン③で保護されるAIコンテンツには、次のようなものが挙げられます。

  • 登録されたAIコンテンツ(現在の商標のような形。)
  • 市場に広まった結果「周知性」や「著名性」を獲得したAI創作物(現在の不正競争防止法上で保護される形)

このように、著作権法で保護されないAIコンテンツも、新たな枠組みで保護しようという方向で、議論が進んでいるのです。

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