スタートアップやベンチャー企業の株式譲渡の手続と法的な注意点【2019年12月加筆】

事例検証

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株式譲渡手続の必要性

スタートアップやベンチャー企業については、創業時メンバーに加えて、これから経営に参画するメンバーに、会社の株式の一部を譲渡するということが行われます。

では株式譲渡は、どのような手続を行えばよいでしょうか。今回は、株式譲渡の手続きについて、解説していきます。

ほとんどのスタートアップ・ベンチャー企業の株式は,株式を譲渡するのに会社の承認が必要となる「譲渡制限株式」ですので,これを前提として、解説していきます。

譲渡承認の決定・通知、株主名簿の書換

会社法127条以下に株式譲渡の手続は定められています。

譲渡当事者側(譲受人・譲渡人)の手続と、会社側の手続についてそれぞれ解説していきたいと思います。

譲渡当事者側の手続

譲渡当事者側の手続としては、以下の3つの手続きが必要です。

  1. 株式譲渡契約書の締結
  2. 株式譲渡承認請求
  3. 株主名簿書換請求

株券発行会社の場合には株券の交付を行わなければなりませんが、今の会社法では株券不発行が原則なので、株券の交付を行う場面は多くないと思います。

①株式譲渡契約書の締結

誰が、誰に対して、何株の株式を、いくらで譲渡するか」を記載することが必要です。

形式や記載事項は法律上で定められていませんが、譲渡人が対象株式の適法な所有者である保証、株主名簿書換に必要な書類の交付、譲渡代金を支払う時期などの規定をすることが一般的です。

株式の譲受人は、株式名義書換のタイミングや定時株主総会基準日との関連にも注意してください。

例)
事業年度が1月1日~12月31日
定時株主総会の基準日が12月31日
会社の株式を1月に譲り受けた

この場合、3月に開催される定時株主総会で議決権を行使可能なのは基準日時点の株主(譲渡人)となり、譲受人の目測と相違が生まれてしまう見込みがあります。

そのため、基準日後から定時株主総会前までに株式譲渡をする場合には、株式譲渡契約書の中で「譲渡人による定時株主総会における議決権の行使を譲受人に委任する」ということを規定しておくことが必要かもしれません。

②株式譲渡承認請求

譲渡制限株式の譲渡に関して、会社に合意を求める手続です。

スタートアップ・ベンチャーの株式は譲渡制限株式であることがほとんどなので、必ずこの手続をする必要があります。

承認請求は譲渡人、譲受人どちらからでも可能と法律で規定されています。ただし譲受人が、譲渡承認請求をする場合は、譲渡人と共に行わなければならないとされています。

また、会社に対して、譲渡する株式の数・譲受人の氏名などを通知するとされています。書面化しなければいけないことはないため、メールなどで行うことも可能です。

しかし、株式の移動は重要な事項なので、書面化したほうが望ましいですし、一般的です。

③株主名簿書換請求

株主名簿に記載されている株主の名前を、譲渡人から譲受人への変更を求める手続です。株式譲渡契約が当事者間で締結されている場合、株式譲渡は有効です。

しかし、株主名簿に株主として記載されていないかぎり、会社に株主と主張することができません。よって、この請求が必要になるのです。

この請求は、譲受人・譲渡人と共同して行わなければなりません

会社側の手続

会社側は譲渡当事者からの譲渡承認請求、株主名簿書換請求に対応して①譲渡承認の決定・通知②株主名簿の書換を行う必要があります。

①譲渡承認の決定

原則として株主総会(取締役会設置会社の場合には取締役会)で行う必要がありますが、定款に別段の定めがある場合はこの限りではないと会社法で定められています。

定款で、代表取締役が決定すると定めている例もあります。

譲渡承認の決定をしたら、譲渡承認請求者に対して会社は通知しなければなりません

請求から2週間以内に通知をしないと、譲渡を了承したものとみなされてしまうので注意が必要です。

会社にとって支障のある人に、株主が株式を譲渡しようとしている場合、会社は譲渡承認しないことも可能で、承認しない理由を告げる必要は特にありません。

譲渡承認を請求する株主は、当該株式を会社または会社が指定する者(指定買取人)が買い取ることを求めることが可能です。この場合、会社自身か指定買取人が当該株式を買い取る必要があります。

会社が株式を買い取る場合は自己株式の取得となるので、分配可能額の範囲内のみでの買い取りとなり制限を受けることになります。

また、ベンチャーの場合分配可能額がないことがほとんどのため、会社が買い取ることは事実上出来ず、指定買取人に買い取ってもらう必要があります。

もし、指定買取人にも買取りの余力がない場合には、当初の譲渡承認を結果的に認めなければらなくなる可能性が出てきます。

この場合の買取価格は、譲渡承認請求者と指定買取人との協議によって定めるとされています。協議がまとまらなかった場合、譲渡承認請求者は売買価格の決定を裁判所に対して申し立てることが可能です。

その場合、裁判所が譲渡価格を決めることになり、いくらになるかが分からないリスクがあります。

このように、理論的には譲渡承認請求は拒否が可能ですが、事実上拒否が不可能なケースもあります

そのため、既存の株主が会社に支障がある相手に会社の株式を譲渡しようと思わないように、良好な関係を株主と築くことが大切といえます。

②株主名簿の書換

正当な請求があった場合、会社は名義書換をしなければならず譲渡承認のように拒否することはできません。

株主名簿の更新は重要な手続なので、忘れず必ず行いましょう。

会社によって「誰が会社の株主か」、「その株主は何株保有しているか」という情報はとても重要であり、IPOやM&Aにあたって厳しくチェックされる項目でもあります。そのため、株式譲渡についての書類はきちんと保管しておきましょう。

外部から投資を受けている場合には、上記①・②の手続に関する制限規定(譲渡承認が投資家の事前承諾事項になっているなど)が投資契約の中に規定されている場合もあります。そのため、投資契約の内容もしっかり確認しなければなりません。

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