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未払金に対して、どう対応したらいい?
未払金の対応は、会社としても、非常に頭が痛い問題です。
- 商品を販売したのに、期限になっても取引先が代金を払ってくれない
- お金を貸したのに、返してくれない
など、未払いにもいろいろあります。未払金が高額であれば、弁護士に依頼することも考えられますが、少額ですと、弁護士に頼んでしまうと、費用倒れになる可能性があります。
そこで、自力で債権回収をする方法について、解説します。
一般的な方法
債権回収の方法としては、訴訟を提起して、債権の存在と債権額を認めてもらい、それでも取引先が支払わない場合は金融機関口座の差押えなど、強制執行手続を執って回収を目指すのが、通常の手続きです。
しかし、訴訟となると、独特のルールがあり、手間もかかります。弁護士を頼むと、お金もかかります。
そうすると、債権額が大きくない場合は、現実的ではありません。そこで、訴訟以外の方法は、ないのでしょうか?/p>
内容証明郵便による催告
債権回収の際に、最初に考えられるのは、内容証明郵便で督促するということです。
内容証明郵便とは、いつ、どのような内容の文書を誰から誰に出したかということを、差出人が作成した謄本によって日本郵便株式会社が証明する制度です。
第三者による証明が得られるため、契約の解除通知など、法的効果を生じる意思表示の手段や将来の裁判での証拠として使われることもあります。
内容証明郵便による催告のメリット
- 郵送費用として、1500円~3000円程度であり、安い
- 内容証明郵便を送付することで、相手方もプレッシャーを感じることが多く、交渉に応じてもらえる可能性が上がる
- 債権の消滅時効の期間を、6ヵ月遅らせることのできる
内容証明郵便による催告のデメリット
しかし、内容証明については、特に法律的に、効果があるわけではありません。
相手方に無視されてしまうと、それ以上、何かすることができなくなってしまいます。
内容証明郵便による催告の注意点
内容証明効果的な内容証明郵便を作成するためには、請求する債権の内容(対象となる取引の内容、成立日時、金額、約定利息、支払期限、支払方法等)および契約の解除その他の法的効力の内容をしっかり特定する必要があります。
裁判所を利用した手続
相手方が、任意の交渉に応じないとなると、裁判所を利用した手続きに移行せざる得なくなります。しかし、上記のように、通常の訴訟ですと、手間もかかります。
そこで、裁判所を利用した手続きのなかでも、通常の訴訟以外の方法について、解説します。
支払督促
支払督促は、債権者の申立てにより裁判所が支払督促を発する手続です。
裁判所は、形式的な要件さえ整っていれば、原則として申立て内容の真偽を審査せず、督促命令を出してくれます。
裁判所からの通知に対し、債務者が異議の申立てをしなければ手続は終了し、債権者は強制執行の申立てをすることができるようになります。
支払督促のメリット
- 大体、1ヵ月半から2ヵ月くらいで手続が終わり、裁判所に納める手数料は訴訟の場合の半額
- 訴訟と違って書類審査のみで、裁判所に行く必要がない、簡易迅速な手続き
支払督促のデメリット
- 相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てなければならない
- 債務者は異議を申し立てることができ、異議が出されると、その住所地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所の通常訴訟に移行してしまい、それが遠方の裁判所である場合には、債権者は裁判所に行かなければならず、手間と費用がかかってしまう。しかも、異議には法律的な主張は不要(これを回避するために、支払督促の申立て自体を取り下げ、別途訴訟を提起する方法もある)
調停
内容証明郵便による催告には応じなくても、裁判所からの呼出しがあった場合に無視できる人はそれほど多くないと思われます。
したがって、調停の申立てにより、裁判所という第三者を介した話合いのテーブルを設定することができ、話し合いで紛争が解決できるときもあります。
調停では、裁判官以外の調停委員が加わる調停委員会が当事者の言い分を聴き、必要があれば事実も調べ、法律的な評価をもとに条理に基づいて歩み寄りを促し、当事者の合意によって実情に沿った解決を図ります。
調停のメリット
- 訴訟ほどには手続が厳格ではないため、訴訟よりも気軽に利用でき、法律的な制約にとらわれずに自由に言い分を言える
- 裁判所という公平中立な第三者を介した話合いのテーブルが作れる
- 合意が成立した際に作成される調停調書は確定判決と同様の効力を持ち、相手方が調停調書に記載された合意内容を履行しないときには、債権者は強制執行を申し立てることもできる
- 申立手数料(貼用印紙代)が通常訴訟の半額
- 申立書も訴状よりも簡便でよいので書きやすく(ひな型は裁判所ウェブサ イトからダウンロードできる)、弁護士に依頼しなくても手続が利用しやすい
調停のデメリット
- 申立先が、原則として、相手方の住所地を管轄する簡易裁判所になる
- 訴訟と異なり、不出頭に特段のペナルティがなく、紛争に慣れている相手 方には無視されることもある
- 相手方との合意が成立しない場合でも裁判所は何も判断せず、手続が終わってしまう
少額訴訟
訴訟は一般的にコストと時間がかなりかかり、金額の小さな案件で通常の訴訟をするとコスト倒れになる可能性があります。
そのようなケースのために、少額訴訟という制度があります。これは、60万円以下の金銭の支払いを求める訴えについて、原則として1回の審理で紛争解決を図る特別な訴訟手続です。
少額訴訟判決に対する不服申立ては異議の申立てに限られ、控訴はできません。
少額訴訟のメリット
- 判決書または和解調書に基づき、強制執行を申し立てることができる
- 簡易裁判所で行われる手続であり、自社の従業員が訴訟代理人となることができる
少額訴訟のデメリット
- 提訴可能な債権額の上限が60万円である
- 取り調べられる証拠書類や証人は、1回の審理の日にその場ですぐに調べることができるものに限られる
- 1年の間に利用できる回数に制限(10回)がある
- 被告が通常訴訟手続に移行させる旨の申述をした場合、通常訴訟手続に移行してしまう
- 判決に不服のある場合に控訴ができず、判決を下した裁判所と同じ裁判所に対して行う異議の申立てという手続しかないため、異なる裁判所の判断を仰ぐことができない
仮差押え
上記のような裁判所を利用した手続によって回収手続を進めたとしても、相手方にお金がないなどの理由で任意の支払いをしてくれないために実際に回収できない可能性も考えられます。
そこで、仮差押えを行うか否かも回収の際には検討しておくべきです。
仮差押えとは、簡単に言えば、回収に備えて、事前に相手方の財産を保全しておくための、裁判所を利用した手続です。
仮差押えの対象は不動産や金融機関の預金債権などであることが多く、裁判所の発令によって債務者による処分を禁止し、債務者名義の財産を保全し、その後の債権者による回収を容易にします。
なお、申立ての際には対象物の特定が必要となり、例えば銀行預金債権を仮差押えする場合には、相手方名義の口座のある金融機関名および支店名までを特定しなければなりませんが、口座番号の情報は不要です。
仮差押えのメリット
- 本案訴訟の結果を待たずに相手方の財産の保全ができ、将来、本案訴訟で勝訴判決を得た場合にそこから回収することができる
- 銀行口座などに仮差押すると、メインバンクだった場合に、口座が止まることがある
その後、仮差押えを解いてもらうために、交渉に応じることがありえる
仮差押えのデメリット
- 被保全権利の内容等および保全の必要性を主張し、その存在を疎明しなければならない
- 被保全権利の金額の約2~3割の担保を立てなければならない
- 仮差押え命令が発令されたとしても、預金残高がないなど、実際に仮差押えできる財産がないこともある
- 一度供託した担保金を取り戻すためには法定の手続が必要となり、一定の期間取り戻すことができない
- 仮差押命令の発令後、本案訴訟で敗訴した場合などに、債権者が債務者に対して損害賠償義務を負う場合がある
仮差押えは、弁護士に依頼せずに自社のみで対応するのは難しいかもしれませんが、債権回収のための有効な手段ですので、債権回収の際には検討するべきです。
まとめ
仮差押えを除けば、上記のいずれの手続も、弁護士に依頼することなく、自社で対応することはそこまで難しくないでしょう。
請求額が大きい場合、迅速に確実に回収したいような場合など、弁護士に依頼したほうがよいケースもありますが、複雑な事案ではなく、債権の存在を立証可能な証拠が十分ある場合、債権額が少額の場合などは、自社で対応できるケースもあります。
なお、債権の種類によって消滅時効期間が異なっていたり、勝訴判決を得たり和解が成立しても相手方が支払ってくれない場合に、さらに強制執行手続が必要となります。
このような自社で対応できないケ-スでは、専門家である弁護士に相談した方がよいでしょう。