従業員が自社の「企業秘密」を社外に持ちだしたときの法律と対処法【2020年8月加筆】

会社運営に必要な法律

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元従業員が、自社の重要情報を持ちだした!

当社の元従業員Aが同業他社に転職したが、どうやら転職先で当社から持ち出した技術資料を使用して製品を開発したり、顧客リストを使用して営業を行ったりしている。そのせいで、自社の売上が落ち込んでしまっている。」 そのような相談を受けることがよくあります。

このような、元従業員による重要情報の持ち出しについては、どのように対処すればよいのでしょうか。

不正競争防止法による請求

このようなケースで、まず問題となるのは、持ち出された情報が、不正競争防止法上の「営業秘密」に該当するものとして、同法に基づく法的請求が可能かというものです。

会社や元従業員が不正競争行為に該当した場合の対応には以下のようなものがあります。

  • 情報の差止請求
  • 損害賠償請求
  • 信用回復措置の請求

損害賠償の請求を行う場合、損害額はその請求を行う被害者側が立証しなければならないのが原則です。

しかし、情報を持ち出したことによって、自社に受けた損害というのは、立証が難しいのが実情です。

そこで、不正競争防止法では、侵害した者が不正競争行為を通じて得た利益が、被害者の損害額と推定されるという推定規定があります。

これにより、請求者側の立証のハードルが低くなっているのです。

営業秘密として保護されるための3つの要件

不正競争防止法上の営業秘密として保護されるためには、以下3つの要件を満たす必要があります。

  1. 秘密として管理されていること(秘密管理性)
  2. 事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること(有用性)
  3. 公然と知られていないものであること(非公知性)

1:「秘密管理性」の要件

上記3つの要件のうち、最も問題になりやすいのが、「秘密管理性」の要件です。

この秘密管理性が認められるためには、判例などでは、以下の要件が必要とされています。

情報にアクセスできる者が制限されていること(アクセス制限)

誰にでも、アクセスできる情報については、大した情報でないから保護しないというのが、判例の考え方です。

よって、秘密管理性といえるためには、本当に必要な人にだけ、アクセスするためのパスワードを与えておくなどの措置が必要です。

営業秘密であることを認識できるか

また、情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることが認識できるようにしていることも必要です。

例えば、紙媒体であれば「マル秘」表示や施錠可能なキャビネット、金庫等への保管です。

「秘密管理性」が認められるには、高いハードルがある

裁判例でも、秘密管理性が認められるためには、「情報の性質、保有形態、企業の規模等に応じて決せられるべきもの」とされ、一律のルールがあるものではありません。

厳格なアクセス制限の措置がとられていなかったケースでも、秘密管理性を肯定された事例はありますが、一般には「秘密管理性」の要件はハードルがかなり高いと考えたほうがよいでしょう。

2:「有用性」の要件

「有用性」の要件は、広い意味で商業的価値が認められる情報を保護することに主眼があります。

したがって、秘密管理性、非公知性要件を満たす情報は、有用性が認められることが通常であり、また、現に事業活動に使用・利用されていることを要するものではないと考えられています。

3:「非公知性」の要件

「非公知性」の要件における「公然と知られていない」状態とは、当該営業秘密が一般的に知られた状態になっていない状態、または容易に知ることができない状態をいいます。

具体的には、例えば、刊行物に掲載されていたり、学会で公表されていたりするような場合にはこの要件を満たしません。

たとえ社外の複数の者が当該情報を知っていたとしても、これらの者と秘密保持契約を締結しているなどで秘密を維持していれば、なお非公知と考えることができる場合があります

逆に、1人でも秘密保持契約を締結せずに、開示してしまった場合には非公知の要件を満たさない可能性があるため、注意が必要です。

「不正競争行為」に該当するか

情報が「営業秘密」に該当したとして、次に検討すべきは、元従業員の行為が不正競争防止法上の不正競争行為に該当するかという点です。

不正競争防止法では、営業秘密の侵害に関する行為が列挙されています。この侵害行為については、大きく分けて、2つの行為があります。

  1. 企業から、不正な手段で取得した場合
  2. 企業から、正当に取得したが、漏洩などした場合

元従業員が、アクセス権限がなく不正な手段を用いて情報を取得した場合であれば、1のケース。営業秘密を持ち出した従業員Aが、当該情報にアクセスできる正当な権限を有していた場合には2のヶ-スに該当します。

持ちだされた先の会社に対して、請求できるか

元従業員が、情報を持ちだした転職先の会社について、法的な請求ができるかも問題になります。転職先の会社は、以下のような場合に、営業秘密侵害行為に該当します。

転職先が、上記1のように不正な手段で取得されたことを知って(もしくは重大な過失によって知らないで)当該営業秘密を使用しているようなケースです。

たとえば、転職先が、従業員Aの前勤務先からの連絡で、特定の営業秘密を持ち出したという確実性の高い情報を得ているにもかかわらず、当該営業秘密を使用してしまった場合などです。

2つ目は、上記2のように一次的には正当に取得された後に、不正な開示行為(秘密保持義務違反等)が介在したことを知って(もしくは重大な過失によって知らないで)当該営業秘密を使用しているようなケースです。

たとえば、転職先がライバル企業から従業員Aを引き抜いたというケースで、従業員Aがライバル企業に対して秘密保持義務を負っている営業秘密について、秘密保持義務違反になることを知りながら、開示を受けて使用している場合などです。

情報を持ちだされたことが発覚 具体的な対応策

技術情報や顧客リストが社内でどのように管理されていたかを検討し、秘密管理性の要件を中心に、営業秘密該当性を検討することになります。

営業秘密に該当する場合には、従業員がどのような手段で当該情報を持ち出したのかという点を、従業員の在職中の立場などを踏まえて検討し、さらに転職先がどの程度事情を認識していたかを検討していくことが必要です。

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