従業員を辞めさせたい!解雇と退職勧奨の違いとは【2020年8月加筆】

雇用・労務関係の法律

komon5000

従業員をやめさせたい!解雇と退職勧奨、どちらの方法がいい?

ある従業員が、遅刻や欠勤も多い。就業態度も悪いため、他の従業員からの評判も悪く、業務に支障を来している

スタートアップやベンチャー企業であれば、人員に余裕がないので、この従業員に辞めてもらいたいと考えると思います。

この従業員に辞めてもらうために解雇や退職勧奨をして退職してもらう場合に、解雇退職勧奨、どちらの方法がよいでしょうか。

従業員に辞めてもらうためには、どのような方法があるのでしょうか。

解雇と退職勧奨

解雇とは、社員をクビにすることをいいます。つまり、会社から、従業員との間の雇用契約を一方的な解約することをいいます。

解雇は、懲戒処分としての性格を有する懲戒解雇と懲戒処分ではない普通解雇に分かれます。

また、一定期間内に自己退職しない場合には解雇するという、懲戒処分の一種としての諭旨解雇という、解雇と退職勧奨の中間的なものもあります。

退職勧奨は、あくまで従業員による自発的な退職もしくは両者の合意による労働契約の解約に向けて会社が行う行為を指します。

例えば「君は、もうこの会社でやっていくことは難しいと思う。だから、辞めてくれないか」と会社側が、労働者に通知するといったものです。

退職勧奨は、最終的に、従業員の同意を得て会社を辞めてもらうことを目的としています。

解雇の法律的なポイント

民法上は、期間の定めのない雇用契約については、各当事者は、いっでも解約の申入れをすることができ、この場合、雇用契約は、解約の申入れの日から2週間を経過すると終了するとされています。

しかし、労働者保護の観点から労働基準法においては、この原則は修正され、会社による解雇には30日前の予告または30日分以上の平均賃金を支払うという解雇予告手当の支払いが必要とされ、業務災害に関する療養や産前産後の休業中およびその後30日間の解雇が制限されています。

さらに、判例上「解雇権濫用法理」という、客観的に合理的な理由のない解雇や社会通念上相当と認められない解雇を無効とするルールが確立されてきましたが、現在では、このルールは労働契約法16条に明記されています。

解雇権濫用法理

これは、「客観的に合理的な理由がなければ、そもそも解雇できませんよ」というルールです。この客観的な理由というのは、以下のような場合を言います。

従業員の能力不足

従業員の成績が、他の社員に比べて、極端に悪い場合や特別な能力を期待して良い条件で入社させた従業員が、その能力を有していなかった場合などです。

ただし、注意が必要なのが、能力不足により解雇は、判例認められるためのハードルはかなり高いです。

そもそも、判例も、工場労働者のような形態を想定しており、遅刻・欠勤などは、解雇事由になりやすいのですが、能力不足というのは、証明も難しく、なかなか認められていません。

従業員の規律違反の行為

従業員が、会社の規律違反の行為を行った場合などがこれに該当します。

具体的には、出社拒否による労務提供義務違反、暴言、暴行、セクハラなどの服務規律違反、競業避止義務違反、秘密保持義務違反などの行為がこれにあたります。

会社側の事情

会社の業績不振によるリストラ(整理解雇)、職種が消滅し他の職種への配転もできない場合、地方の営業所を廃止し他の営業所への配転もできない場合、会社が解散する場合などが考えられます。

このうち、リストラについては、以下の4要件を満たす必要があります。

  • 人員削減の必要性
  • 手段として整理解雇を選択することの必要性
  • 被解雇者の選定基準の妥当性
  • 手続の妥当性

懲戒解雇について

従業員が、就業規則に違反していることをしている場合には、懲戒処分としての解雇を行うことも考えられます。

ただし、懲戒処分についても、普通解雇同様、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に無効とするという規定が、明記されるに至りました。

そもそも、懲戒処分は、懲戒処分の根拠となる規定が就業規則に存在することが前提です。

そして、懲戒事由に該当する行為が存在することは当たり前ですが、懲戒処分が過度に重くないことも必要です。

例えば、就業規則違反を1回犯しただけで即懲戒解雇処分とすることは、仮に懲戒事由に該当するとしても、相当性を欠き、無効となる可能性が高いと考えられます(もちろん、横領などの犯罪行為をした場合には、1発で解雇もありえます)

したがって、軽微な就業規則違反に対しては、まずは戒告等の軽微な処分で対応し、これが繰り返されるときには、黙認することなく、その都度適正な懲戒処分を行うことが大切です。

このように、段階を踏んでおくことで、最終的に将来の解雇の相当性が認められやすくなるのです。

諭旨解雇について

諭旨解雇も、懲戒処分の1つですが、従業員に対して一定期限内の退職を勧告し、従業員が自ら期限内に退職しない場合には懲戒解雇することとするものです。

諭旨解雇も、懲戒処分の1つなので、上記の懲戒解雇の説明が、諭旨解雇にも当てはまります。

従業員が自身に非のあることを認めている場合、懲戒解雇という履歴を残さない退職という形になり、その後の再就職の際の不利益を回避できるため、実務上、用いられることがあります。

退職勧奨

上記のとおり、退職勧奨は、従業員が自らの意思で退職をすることを会社が促すことにすぎないため、法律上は、問題ありません。

しかし、従業員の退職の判断が半ば強制的に行われてしまっては、自らの意思で退職したとはいえなくなってしまい、法律上、問題となる可能性もあります。

中には、度を越した退職勧奨に対して、会社側を訴えた事例もあります。この事例では、以下のようなことを考慮して、不法行為該当性の判断を行っています。

  • 面談に同席する人数
  • 退職勧奨を行った期間、回数
  • 1回当たりの面談の時間
  • 面談中の発言内容や態様
  • 職務上の嫌がらせの有無や内容

実際に退職勧奨を行う場合には、面談は2人程度の複数で対応するのが良いと思います。

1対1ですと、言った言わないの水掛け論になりやすく、3人以上ですと、多すぎると威圧的になってしまうおそれがあります。

長時間拘束したりせず、高圧的、強制的にならないよう言動に注意しながら、あくまで説得の範囲を出ないよう心がける必要があります。

また、退職勧奨の際には、録音を取っておくことも検討しましょう。

解雇無効の場合

解雇の要件を欠いたり、退職勧奨による退職に任意性が認められない場合などには、その効果が認められません。

この場合、従業員としての地位が存続していたこととなり、事後的に解雇や退職勧奨による退職が無効であるとされると、それまでの期間の給与とその遅延損害金を遖って支払わなければならないので、この点からも解雇や退職勧奨の際には慎重な対応が必要です。

解雇は、簡単にはできない

原則として、正社員の雇用関係を終了させる解雇は、難しいです。会社としては、退職勧奨で、従業員と話し合い、自主的に辞めてもらうのが、ベストです。

その際には、なぜ、今後の雇用契約の継続が難しいのかを、客観的な評価も踏まえて、従業員と話し合う必要があります。

不用意に解雇してしまうと、後から、裁判沙汰になって場合に、会社側は、非常に不利になります。

従業員を辞めさせる場合には、専門家に相談するなど、慎重に対応するようにしましょう。

komon5000