企業における特許権と従業員の発明(職務発明)の取扱いの注意点とは【解説】【2020年9月加筆】

著作権・商標権の法律

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従業員が発明した特許は、誰のもの?

スタートアップ・ベンチャー企業では、特許の存在は、非常に大きいものです。

特許権というのは、権利という目にないものなので、その管理は、非常に重要なものになってきます。

特に、自社の従業員が開発した発明についての権利の帰属が問題となる場合が多いです。

そこで、今回は、このような場合、会社としてどのように対応するかを検討していきます。

従業員の発明【職務発明とは】

例えば、会社の業務として、従業員が行った発明について、会社に権利が帰属するのか、当該従業員に帰属するのかという問題です。

会社の業務によって、従業員が行った発明は、職務発明といいます。

職務発明と言えば、青色発光ダイオード(青色LED)訴訟が有名です。日亜化学工業に当時在籍していた青色LEDの発明者が、職務発明の報酬を請求して、一審で200億円もの報酬額が認められました(のち約8億円で和解)。

上場を目指すベンチャーも、重要な特許の権利処理ができていない状態では、特許をめぐる紛争リスクがあるものとして上場が難しくなるケースがあるため、職務発明の法的な位置づけを理解しておくことが重要です。

職務発明に関する特許法の規定

職務発明に関する特許法の規定は、概要以下のとおりです。

  1. 会社の従業員等が、会社の業務に属し、かつ、その職務に属する発明をした場合、それを「職務発明」とする
  2. 職務発明について、その発明者である従業員等が特許の登録を受けた場合、会社はその特許について通常実施権を有する
  3. 会社があらかじめ、社内規程や雇用契約などで、「職務発明」を会社が取得する旨定めたときは、その権利は会社に帰属する
  4. 社内規程などで従業員の職務発明を会社に帰属させた場合、その見返りとして「相当の利益」(以下、「発明報酬」といいます)を従業員に支払わなければならない

2と3からわかるとおり、職務発明は、何もせず放っておくと、発明者である従業員等に権利が帰属し、会社は通常実施権を取得するのみとなります。

通常実施権を有していても、従業員等がその特許を第三者に譲渡や実施許諾することは禁止できず、その特許を独占できないので、重要な特許であればビジネス上重大な問題となります。

また、会社の出願人名義で出願しているから安心と思われるケースもあるようですが、社内規程や雇用契約において会社が権利を取得する旨の定めがなければ、従業員が出願する権利を有するものを会社が無権隕で出願していることになってしまいます。

したがって、権利を会社に帰属させるには、社内規程や雇用契約でその旨を明記する必要があることを理解しておくのは重要です。

発明報酬の規定

それでは、社内規程で会社への発明の権利帰属を規定しておけば十分ではなく、④に記載した発明報酬への配慮が必要です。

では、発明報酬の金額は、どのように決めるのがよいのでしょうか?この点について、特許法は、以下のように定めます。

  1. 社内規程等で発明報酬を定める場合、労使間の協議の状況、策定された基準の開示状況、従業員からの意見の聴取状況等に照らして、不合理なものであってはならない
  2. 発明報酬の規定がない場合や、ある場合でもその規定が①の条件を満たさない不合理なものである場合は、発明による会社の利益、会社側の負担・貢献、従業員の処遇などの事情を考慮して(最終的に裁判所によって)定められる

発明報酬のルールがない場合、従業員と紛争になれば、②の基準により裁判所の判断を仰ぐことになります。

この金額算定については、一概には決められませんが、青色発光ダイオード(青色LED)訴訟では、第一審で、200憶円という高額の判決が出されたこともあります。

仮に、会社が一方的に低額な報酬を定めている場合も、訴訟になって裁判所から不合理と判断されれば、同様のリスクがあることになるのです。

職務発明規程は、必須

上記の理由から、スタートアップ・ベンチャー企業で、技術を持っている会社では、職務発明規程が必須になってきます。

職務発明規程で定められる発明の対価については、法律について、以下のようになっています。

  • 規程を定める際の労使の協議や情報開示
  • 金額を算定する際の意見聴取といったプロセス面

このことから、職務発明規程に基づく報酬額は、発明の経済価値や発明者の貢献度などの客観的な要素を考慮することが必要なのです。

したがって、発明の対価が、従業員からの意見聴取などの適切なプロセスを経たうえで規程を制定しておけば、法的に規程どおりの金額で足りる結果となる可能性が高いです。

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