ベンチャーキャピタルからの投資契約書にあるドラッグ・アロング・ライト(強制売却権)条項とは【2020年9月加筆】

会社運営に必要な法律

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ベンチャーキャピタルからの投資契約のドラッグ・アロング・ライト

ベンチャーキャピタルから投資を受けるにあたり「ドラッグ・アロング・ライトを認めるか」という話題になることがあります。

「ドラッグ・アロング・ライト」とは、M&Aを強制することができる権利です。

対象会社の買収に関して、一定の要件(例えば、優先株主の総議決権の3分の2以上の承認)を満たした場合、他の株主に対して買収に応じるべきことを請求できる権利です。

会社の支配権の移転という「買収」を強制する権利であるため、ある意味とても強力な権利です。

「強制売却権」、「売却請求権」、「売渡請求権」などという用語を使用している場合もあります。

ドラッグ・ア囗ング・ライト(強制売却権)の目的と必要性

ベンチャー投資の投資家としては、適切なM&Aの機会があった場合には、そのM&Aを実行して自らの投資の回収を図りたいと考えるものであり、ドラッグ・アロング・ライトはこのような投資家側の意図から投資契約において規定することを要請されるケースが一般的です。

ドラッグ・アロング・ライトの主要な目的は以下の2つにあります。

  1. 少数株主に買収に応じることを請求できるようにする
  2. 経営陣が買収に応じることを請求できるようにする

1)少数株主への買収請求

買収(M&A)には、大きく分けて、(i)株式譲渡、㈲株式交換、株式移転、合併等の企業再編行為、倒事業譲渡、会社分割等の事業の移転形態があります。

株式譲渡については、仮に99%の株主が買収に賛成したとしても、1株を保有している株主が、「自分は絶対に売らないと言い張ると、100%買収は困難となります。

このような事態は、会社の経営陣としても、買収を実行したいと思っている際には、大きな問題となります。

したがって、買収(M&A)の際に、少数株主に買収に応じることを強制できるようにしておくことは、投資家のみならず、経営陣にとっても重要なことと言えます。

2)経営陣への買収請求

VC等の投資家は、ベンチャーに投資をして、IPOまたはM&Aの形で投資した株式を売却することでキャピタルゲインを得ることを目的に投資活動を行っていることから、イグジット機会を確保することは最重要課題の1つです。

特に、ファンドという形で第三者の資金を預かっており、ファンドの期限があるVCにとっては、この点は極めて重要です。

投資時点では、将来のM&Aの可能性について経営陣と合意をしていたとしても、投資からM&Aまでには数年の期間があるのが通常であり、その後の会社の状況や経営陣の考え方の変化などで、具体的なM&Aの時点で投資家側と経営陣とで意見があわない可能性があります。

このような事態は大きく分けると以下のような2つのケースに分かれます。

  1. 会社が順調に発展している状況において、VCとしてはよいM&Aのオファーがあったのでこれを実行したいが、経営陣としては、会社はもっと大きくなるはずなので、将来のIPOやもっと大型のM&Aを狙いたい
  2. 会社がうまく行かず、実質的な時価総額も小さくなってしまっており、VCとしてはファンドの満期の関係で株式を売却せざるを得ず、損切り覚悟 でもM&Aを実行したいが、経営陣がねばってしまいM&Aに応じてくれ ない

このような場合において、経営陣にM&Aに応じてもらうことが、ドラッグ・アロング・ライトのもう1つの目的ということになります

ドラッグ・ア囗ング・ライト(強制売却権)をいつ発動されるのか

投資契約においてドラッグ・アロング・ライトを定めることに関し、買収のオファーがあった場合に、どのような要件を満たした場合に、投資家が他の株主に対して買収に応じることを請求できるかという「発動要件」を検討することはとても重要です。

これは上記に述べた「目的」によって変わってきます。

ドラッグ・アロング・ライトの目的が、①「少数株主に買収に応じることを請求できるようにする」ということであれば、発動要件としては、以下の例のような形で目的を達成することが可能です。

  • 全株主の総議決権の○%以上の賛成があった場合
  • 優先株主の総議決権の○%以上の賛成があり、かつ、会社の取締役会で承認された場合

なお、「○%」の部分は、「3分の2」、「80%」などとする例が多いです。これであれば、経営陣にとってもそれほどリスクはなく、むしろ、経営陣としても他の株主がM&Aに応じるべき規定を設けておいたほうが安全かもしれません。

他方で、投資家にとってのドラッグ・アロング・ライトの目的が、②「経営陣が買収に応じることを請求できるようにする」ことにある場合は、上記のような形だと、経営陣が反対すると実行が難しいため、投資家からすると、意味がないことになります。

したがって、この場合は、シンプルに「優先株主の総議決権の○%以上の賛成がある場合」という要件が提示されるのが一般的です。

しかし、これだと、投資家側の意向で会社の売却を余儀なくされてしまうことになり、経営陣としては、何とか合理的な内容に修正することを要請したいところです。

このように、ドラッグ・アロング・ライトの規定を入れるか否かというゼロか100かの交渉になってしまうと折り合いが難しくなってしまい、しまいには投資を受け入れるか否かという究極的な交渉になってしまいます。

ドラッグ・アロング・ライト(強制売却権)の適切な条項

上記のように、息詰まることの多いドラッグ・アロング・ライト(強制売却権)条項ですが、どこに落としどころを見つけるべきなのでしょうか。

経営陣の目線からみると、経営陣としてもたしかにM&Aも視野に入れているものの、上記の規定だと、投資家の意向で、自分の望まない時期に、望まない金額で売却を強制されてしまうから困るのです。

そうなると「時期」と「金額」の問題が大きいことになります。

ドラッグ・アロング・ライトの目的に照らして、この「時期」と「金額」を発動要件に織り込んでいき、両者の妥協点を検討していくことが考えられます。

例えば、投資家側としては、上場目標時期までにIPOできなかったらさすがにM&Aに応じてほしいと考えているなら、「ただし、0年○月○日以降に限り適用される」という形で、期限を設定することが考えられます。

この期限については、上場目標時期だけでなく、ファンドの満期との関係で設定することも考えられます。

「時期」をある程度制約することで、妥協点を見つけやすくなります。

また、経営陣としては、無給に近い形で、24時間365日事業に邁進して、その挙げ句に小さなM&Aを強制されてほとんどキャピタルゲインがないという事態は避けたいと思うのは当然ですが、数億円もキャピタルゲインが生じるM&Aのオファーに対して、経営陣がもっと欲をかいて、投資家がイグジットの機会を失うのは逆にアンフェアな面もあります。

そこで、「ただし、買収で想定される時価総額が○億円以上の場合に限り適用される。」などとして、経営陣としてもそれなりに報われるM&Aの場合には買収に応じる形にすることが考えられます。

もちろん、上記の時期と金額を組み合わせて、例えば、上場目標期限までは、買収で想定される時価総額が一定額以上の場合に限り適用されるが、ある期限以降はそのような金額制限なく適用されると設計することも可能です。

このような形で、起業家と投資家が、M&Aの時期や金額について、よく話し合い、適切な形でドラッグ・アロング・ライトの発動要件が設計されることが望まれます。

契約当事者を誰にするのか

ドラッグ・アロング・ライトを規定する場合には、契約当事者について検討する必要があります。

ドラッグ・アロング・ライトの目的が、①「少数株主に買収に応じることを請求できるようにする」ことにあるのであれば、反対する可能性のある少数株主を全て契約当事者にして拘束しておく必要があります。

したがって、この場合は、全株主を契約当事者とする必要があります。

株主が多い場合に、全ての株主を「投資契約」の当事者とすると、全株主に投資契約の内容を開示することになってしまううえ、投資契約の内容のチェックの負担までかけてしまうのも不合理であるため、ドラッグ・アロング・ライトの規定だけを抜き出して、別途、合意書等を作成するケースもあります。

ドラッグ・ア囗ング・ライト(強制売却権)は、慎重に

以上のように、ドラッグ・アロング・ライト条項については、会社側、投資家側とも、センシティブな問題であり、慎重に締結する必要があります。

目的はどこにあるのかを考え、条項を固めるようにしましょう。

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