裁判や紛争がIPO審査に与える2つの影響とは【解説】【2020年9月加筆】

IPO(株式上場)の法律

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裁判・紛争は、IPOにマイナス要素になるの?

株式の上場の際には、投資家を保護する観点から、会社のあらゆる事情を対象に様々な審査があります。上場を検討している会社が裁判を抱えている場合には、どのような影響があるのでしょうか?

上場審査基準とは

上場審査の基準には,大きく分けて形式的要件と実質的要件があります。

形式的要件

株主数や、時価総額、事業継続年数等の、一定の数値や事実の有無が設けられ、最低限クリアしなければならない基準です。

実質的要件

上場会社にふさわしい要素を備えているかどうかを審査するための基準です。安定した収益性を維持し、事業を公正かつ忠実に遂行していること(健全性)等が求められます。

これらの要件は取引所ごとに基準が異なりますが、ベンチャーが上場を目指すことの多いマザーズの上場基準は、東証一部や東証二部よりも低く設定されています。

情報開示規制

株式の募集や売り出しの際には、内閣総理大臣宛てに有価証券届出書等を提出しなければなりません。

裁判を抱えている場合、この届出書には、訴訟の内容・結果の見込み・財務状況や事業活動への影響などを記載する必要がありますが、有価証券届出書等は誰でもネット上で閲覧できますので、記載内容には細心の注意が必要です。

勝てそうにない裁判について、「完全勝訴の見込み」と記載すれば虚偽の申告となり、課徴金制度(https://www.fsa.go.jp/sesc/support/kaiji-ihan/seido.htm)の対象となります。

しかし「勝訴の可能性は低い」と素直に記載すれば、その情報を裁判の相手方が閲覧してしまった場合に、和解交渉で不利になる可能性もあります。

裁判・紛争がIPO審査に及ぼす影響

裁判がIPO審査に与える影響として、次の2つが考えられます。

上場スケジュールへの影響

会社が裁判を抱えている場合、その終了時期、結果、終了までのコストなどの見込みについて、審査の中で説明を求められることが想定されます。

説明の際には、その根拠となる資料の提出も合わせて求められることが多く、主に、弁護士の意見書の提出を求められることが一般的です。この意見書の作成のために時間を取られることで、上場スケジュールに影響を及ぼすことになります。

また、会社が明るい見解を説明しているにもかかわらず、弁護士が意見書で厳しい見解を示している場合には,会社の事実認識の甘さや経営管理体制が問題視されてしまい、その改善策を検討するよう要求され、さらに余分に時間を取られることになりかねません。

審査結果自体への影響

会社が裁判に負け、巨額の損害賠償を支払うことになった場合、会社の財務状況は悪化し,収益性が危ぶまれることもあります。また、同じような裁判が多発している場合には、事業の健全性が問題視されます。

上場した後にそのようなことが起きないように、IPO審査の段階では、会社が抱える裁判の、今後の影響について審査されます。裁判の結果が企業経営に重大な影響を与える可能性がある場合には、上場基準の【実質的要件】をクリアできなくなり、上場できなくなる可能性もあるのです。

上場審査前に無理やり裁判を終わらせたとしても、その行為自体が審査で問題視される可能性もありますので、やみくもに裁判を終了させることが得策とは限りません。速やか、かつ、不利益を最小限にして解決するよう心がけることが大切なのです。

事前に裁判への対策を立てておくこと

万が一、会社が裁判を抱えてしまっても、裁判が企業経営に及ぼすリスクが限定的であることが客観的に説明できるようにしておきましょう。

売買契約書等には、免責事由や損害賠償範囲、損害賠償額の上限の設定などをしっかりと盛り込んでおくことが重要です。また、裁判にならないよう、取引の相手方から警告書などが届いた場合には、決して放置しないようにしましょう。

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