IPO(新規上場)を目指す企業がとるべき運営方法を法律の観点から解説

IPO(株式上場)の法律

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IPO(新規上場)を見据えた企業運営

企業運営をしていると、IPO(新規上場)というのが、一つのゴールとしてあります。

IPOをしてみたい企業にとって、そのゴールに向けて、どのように企業運営を進めるかは、興味があるところです。

そこで、IPOを目指す企業が行うべき企業運営について、法律的な観点から弁護士が解説します。

IPOの審査には、コンプライアンスが大事

いざIPOをするとなると、上場に向けての要件をクリアしていく必要になります。

証券取引所および主幹事証券会社のIPOの引受審査において、コンプライアンス体制がチェックされます。

コンプライアンスとは、簡単にいうと、ちゃんと法律を守っているかというものです。

IPO引受審査は実際どう行われているのか

まず、法律的なチェックポイントの前提として、IPO引受審査がどのような観点から行われているかを理解する必要があります。

IPOとは、自社の株式を証券取引所を通じて一般的な投資家の間に流通させることを意味します。証券取引所は、多大な資金調達のプラットフォームであり、多額の資金を調達できます。

しかし、その反面、投資家に対して負うべき責任も大きくなります。

そこで、その責任を果たすために、法律上も、自社に内在するリスクを適切に投資家に開示し、各投資家が、適切に投資できるように、判断材料を提供することが重要になるのです。

金融商品取引法では、有価証券届出書等の開示書類において、いわゆるリスク情報を適切に開示するべきことを要請しています。

例えば、会社としては、紛争の可能性がある事項については、そのリスクの存在を開示が必要になってきます。

そして、そのリスクの存在とその見通しについて、客観的な証拠として弁護士等の専門家の意見が要求されるのです。

主幹事証券会社の立場を理解する

IPOの手続きを進めていると、主幹事の証券会社から、色々と指摘されて、面倒だなと思うこともあるかもしれません。

しかし、主幹事証券会社の立場からすると、上記のように、上場するにあたっては、企業に責任が生じるため、そ責任を全うさせるために、様々な指摘をしています。

また、有価証券届出書等の開示書類については主幹事証券会社も直接的に責任を負う場合があります

このように、主幹事証券会社も、IPOをするにあたっては、責任が生じるのです。よって、IPOを進める会社としても、主幹事証券会社とは、二人三脚で、IPOをするという気持ちでやっていきましょう。

IPOの引受審査事項

IPOの引受審査というと、重箱の隅をつつくような細かい点も問題視されそうというイメージを持たれている方もいるかもしれません。

引受審査については、会社に法律的な問題がありそうであれば、深く突っ込まれます。

IPOに関する開示書類に虚偽記載等がないかという視点からすれば、まず、ある問題が発見された場合には、それが投資家に開示しなければならないほど、重要な問題かという視点から検討する必要があります。

そして、もし、開示が必要なレベルの問題が生じていた場合には、次に開示可能かという観点から検討する必要があります。

例えば、会社の事業の根幹をなすライセンス契約にライセンサーからの任意解除権が定められ、仮にこの契約が解除された場合、売上の半分以上を占める事業の継続が不可能だとすると、このようなリスクを抱えたまま上場することは難しく、本リスクは開示に耐えられないと判断される可能性が高いです。

しかし、例えば、ある業務の大部分を特定の会社に委託しており、その意味で依存度が高いが、仮にその会社との契約が切れた場合でも、一時的な事業運営上の支障が生じる可能性はあるものの、代替先を見つけることがさほど困難ではなく事業継続の根幹に関するような問題ではない場合は、そのようなリスクを適切に開示してIPOを実行することはできる可能性があります。

したがって、IPOを目指す企業は、ある法的な問題が生じた場合、それが開示をすれば済むレベルのリスクであるのか、開示に耐えられず修正をしない限りIPOを達成できないリスクであるのかを見極めて、対処を行うことが重要です。

このような判断は、多くのIPOの現場に携わっている専門家でないと判断が難しい面があり、早めに専門家に相談することをお勧めします。

会社の基本的事項

コーポレート関連事項としては、会社の設立手続に始まり、その後の株式移動や株式等の発行などの資本関連の事項や、株主総会や取締役会の決議、役員変更手続その他の会社法関連手続の網羅性および適法性などが一般的にはチェックの対象です。

特に、株式移動や株式等の発行などの資本関連の事項は、コーポレート関連事項の中でも特に重要な事項です。

まず、株式譲渡については、株式譲渡契約、株券発行会社の場合の株券交付、株式の譲渡承認が主なチェック項目です。

また、自己株式の取得について問題を抱えているケースも多くあります。

会社法において、自己株式取得には、分配可能額の範囲内という財源規制や株主総会決議等の手続規制があり、これに反すると自己株式取得が無効となります。

さらに、違法な自己株式取得は刑事罰の対象となるため、IPOの引受審査において大きな問題となってしまうケースがあります。

会社が自己株式を取得しない場合であっても、例えば社長が会社から資金を借りて会社の株式を譲り受ける場合などは、自己株取得規制の潜脱ではないかという問題が生じるため、注意が必要です。

ビジネスモデル関連事項

ビジネス関連事項については、そもそもビジネスモデルが適法であるかが問題となります。

許認可の対象であるか微妙なケースの場合には、弁護士の意見書関連官公庁の見解の確認を要請される可能性があるため、早い段階でこの点をクリアしておくべきです。

なお、「他社も同じことをやっています」という反論がなされることが多いですが、これは適法性の根拠づけになるものではないため、上記の要請への対応が必要な点に、留意する必要があります。

また、ビジネス関連事項としては、重要な契約書がチェックの対象となりますが、IPOの引受審査においては、一般的には、以下の点が重要となります。

  1. 契約の内容が取引実態および会計処理と適合しているか
  2. 競業禁止規定など会社の事業活動を制約する規定が存在しないか
  3. 知的財産権が適切に確保される規定になっているか
  4. 法令に違反する規定は含まれていないか
  5. 契約の有効期間が適切に確保されているか(容易に解除されるおそれはないか)
  6. 不合理な拘束など通常の取引慣行から逸脱している規定はないか

資産関連事項

資産については、資産の適法な保有の確認および担保権その他の制約の有無がチェックポイントとなります。特に知的財産権が重要な論点となることが多いです。

知的財産権についての基本的なチェックポイントとしては、以下のような点があります。

  1. 会社の現在および将来の事業に必要な範囲で知的財産権の出願・登録がなされているか
  2. 出願または登録された知的財産権について無効となる可能性はないか
  3. 会社の役職員との契約および取引先との契約で知的財産権が確保できているか
  4. 第三者の知的財産権を侵害していないか
  5. 知的財産権を適切に管理する体制が整っているか

特許権については、役職員が行った職務発明は、当然に会社に帰属すると勘違いされていることが多いですが、職務発明についても、就業規則や職務発明規程に基づいて会社に特許が帰属する旨の規定が定められている必要がある点に注意が必要です。

著作権については、取引先との契約で大雑把に「著作権は全て委託者に帰属する。」などと規定されていることがありますが、著作権法上、同法27条の権利(翻案権)および28条の権利(二次的著作物に対する原著作者の権利)はそれが譲渡対象として特掲されていないと譲渡対象外であると推定されてしまうため、この点の明記が必要であること、著作者人格権は譲渡不能であるため、その不行使を規定する必要があることに注意が必要です。

ファイナンス関連事項

ファイナンス関連事項としては、借入契約において、いろいろな制約事項がついていないか、予期せずデフォルトになることがないか、それらについて開示の必要性があるか否かなどが論点となることがあります。

また、会社が第三者の債務を保証している場合はもとより、会社の債務を第三者が保証している場合であっても、その解消や開示の有無が問題となる可能性があるため早めに主幹事証券会社と相談しておいたほうがよいでしょう。

労務関連事項

労務については、会社内の各種労務関連規程と実際の運用状況が労働基準法その他の労働関連法令に違反していないかがチェック対象となります。

特に、未払残業代の問題は、財務諸表に記載されていない隠れ債務の一種であり、これがIPO後に顕在化すると投資家が不測の損害を被る可能性があるため、重要なチェックポイントの1つとなっています。

時間外労働についての三六協定違反等についてもチェックの対象となるため、従業員の労働時間についてはタイムカードなどにより適切に管理を行い、早めに整備をしておく必要があります。

その他のチェックポイントとしては、特殊なインセンティブプランや退職金、従業員との賃金や解雇等をめぐる紛争の有無などがあります。

許認可その他の法令遵守

ビジネスモデル関連事項で述べたように、必要な許認可等を適切に取得していることは重要なチェックポイントです。

許認可の取得を怠っていると、ビジネスが突如として継続できなくなる可能性があるうえ、後から取得しようとした場合に、過去の違法状態について刑事罰が科されないか、そもそも今から許認可を取得できるかという点で複雑な問題を生じるため、新規ビジネスを開始する際には、早めに弁護士等に相談しておいたほうがよいでしょう。

特殊な法規制や業界の自主規制等もビジネスに大きな影響を与える可能性があり、その遵守の状況や開示の有無が問題となる可能性があるため、これらについて適切に対応しておく必要があります。

また、近い将来に法改正等がある場合には、その改正の影響も検討対象となることがあるため、法改正の動向についても留意しておく必要があります。

さらに、許認可等だけではなく、下請法、個人情報保護法、特定商取引法、景品表示法等の法令をきちんと遵守しているか、法令遵守を継続する体制が整っているかも重要なチェックポイントです。

また、反社会的勢力との取引を遮断できる体制および契約になっていることも重要です。

紛争

紛争については、現に係争中または係争の可能性のある事項が大きなチェックポイントです。

すでに訴訟になっている場合には、その勝敗の予測だけでなく、仮に敗訴した場合に会社の業績、財政状態および事業運営に生じる影響や、それを踏まえての開示の必要性および程度についてかなり慎重な検討を要します。

訴訟になっておらず、警告書等のレベルであっても、訴訟になる可能性がどの程度高いか、仮に訴訟になった場合の上記検討対象事項が論点となり、弁護士の意見書等が要請される可能性もあるため、早めに主幹事証券会社と相談して対応方針を決めておく必要があります。

過去に終了した訴訟等についても、それが将来の会社の事業に影響を与えないか、また、同様の紛争が生じる可能性がないかという点からチェック対象になるので、適切に説明できるようにしておく必要があります。

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