ビッグデータを法律・契約で、どのように保護するか【解説】【2020年10月加筆】

著作権・商標権の法律

AI、lOT等のビッグデータビジネスにおいて、生データの重要性が増しています。

例えば、lOTでは、あらゆるモノからモノの状態をセンシングすることにより、これまで収集することができなかった情報を収集しています。

例えば、スマートウォッチでは、センサーにより常時、人の血圧・脈拍等の情報や、人の位置情報を収集することができます。人の脈拍等のデータや、人の位置に関するデータは、単純なデータに過ぎないが、これを「常に」収集してビジネスに活用することができるようになったのは、あらゆるモノにセンサーが設置され活用されるlOT時代ならではです。

企業としては、このようなデータについて、いかにして自社で囲い込むのか、又は自社で利活用するのかという点が重要になります。

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ビッグデータを知的財産権による保護

ビッグデータビジネスを行う企業は、生データそのものについては、「著作物」ではなく、著作権による保護は及ばない点を理解しておくべきです。

著作権法上、「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定義され、創作性が必要です。

生データは単に収集された情報に過ぎず、誰かが創作したものではないため、著作物には当たりません

また、生データそのものではなく、そのデータを集積したものについて、編集著作物・データペースの著作物として保護できないかが検討されるが、これも一般的なビッグデータビジネスにおいては、難しいです。

編集著作物は、「編集物でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは、著作物として保護する。」と定義されています。

データベースの著作物は「データベースでその情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するものは、著作物として保護する。」と定義されます。

これらの定義からわかるとおり、単に情報を収集した集積を著作物として保護するというものではなく、素材の選択・配列又はデータの選択・体系的な構成に「創作性」が要求されます。

一般的なビッグデータの集積は、後に検索しやすいように単純な順序により配列・整理されるものであり、創作性がないと評価されることが通常です。

以上のとおり、ビッグデータについて知的財産権による保護は困難といえます。

ビッグデータの保護の可能性

ビッグデータの保護の可能性を検討すると、知的財産権ではなく、民法、不正競争防止法、契約による保護の可能性が考えられます。

民法による保護

ビッグデータはデータの集積であり、創作性があるものではないですが、その収集の過程で企業が多大な労力・コストを負担して収集するものがあります。

lOTによるセンシング技術が、この一例です。このようなビッグデータを第三者がフリーライドすると、企業の営業上の利益が侵害される可能性があります。

ビッグデータを収集した企業としては、このような第三者に対して損害賠償請求することが考えられます。

不正競争防止法による保護

不正競争防止法は、ビッグデータが「営業秘密」に該当する場合、営業秘密を不正に取得したり、不正に使用したりすることが禁止されます。

これによれば、ビッグデータの保有者は、ビッグデータを不正に取得したり使用したりした者に対し、損害賠償請求・差止請求などをすることが可能となる。

「営業秘密」に該当するためには、①秘密管理性、②有用性、③非公知性が必要です。ビジネスに活用できるビッグデータであって、保護が必要であれば企業も秘密に管理するため、通常①②は満たすものと考えられる。

ただし、lOTやAIなどのビジネス分野では、③の非公知性が問題となる。データのオープン化か重要であり、自社でデータを買い込むのではなく、データを他者にオープンにし、反対に、他者からもオープンにしてもらうことが多く、これにより、広くデータを利活用したイノベーションが期待されます。

このようなデータの活用のされ方が見込まれるlOTやAI等の分野においては、営業秘密としての保護が困難な場合が多いのが実情でしょう。

契約による保護

上記を踏まえると、データの利用・秘密保持に関しては、契約で解決する必要があります。

データを第三者に提供して共有する場合には、提供すべきデータと、自社で保護するデータを区別し、利用権限を第三者に与える範囲を適切な範囲に切り分ける必要があります。

このような利用権限の設定は、相手方企業との契約でされることになります。よって、適切な契約条項を定めなければなりません。

データを提供して共有する契約は、データの使用許諾契約です。

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