【解説】スタートアップやベンチャー企業で「取締役などの機関設計」はどうするべきなのか。【2020年9月加筆】

会社運営に必要な法律

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スタートアップやベンチャー企業が、ステージごとの機関設計

スタートアップ・ベンチャー企業は、ビジネスをしていく上で、どんどんと成長していきます。

企業のステージに合わせて、取締役などの構成も変えていく必要があります。

そこで、今回は、スタートアップ・ベンチャー企業が、成長するステージごとに、どのような機関設計をしていくべきかを検討していきます。

会社法の規定

会社法では、株主総会および取締役は、必須の機関になります。

これ以外の機関を置く場合には、定款の定めにより、取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人、監査等委員会または指名委員会等を置くことができます。

法律上は、以下のような、様々なルールがあります。

  • 取締役会設置会社は監査役を置く必要あり
  • 公開会社(定款において株式譲渡制限の定めをしていない会社)は取締役会をおく必要あり

創業からアーリーステージ

この初期の段階では、なるべく簡潔な組織の方がよいです。スピード感をもって取り組むためは、少ない組織にしておく必要があります。

そこで、機関としては、取締役のみ。または、取締役会十監査役のみ。というのが、良いと思います。

1)取締役のみ

昔は、株式会社というと、取締役会(取締役3名)と監査役が必要だったのですが、現在の会社法では、これらの機関を置かずに取締役のみとすることが可能です。

多くのスタートアップ企業は、取締役のみの構成で始めることが通常です。

2)取締役会+監査役

スタートして、ベンチャーキャピタルなどから、出資を受けるなどの段階になったくると、しっかりとした組織を作る必要が出てきます。

ベンチャーの場合、VCからの調達時にVC派遣の取締役の受入れが条件とされ、これとあわせて取締役3名以上体制の取締役会設置会社への移行を求められるケースが多く見受けられます。

取締役会設置会社では、各事業年度の計算書類等について監査役が監査報告を作成します。

また、監査役は取締役会にも出席します。なお会社の選択(定款の定め)で、監査役の権限を会計事項に限定することも可能であり、この場合は監査役に取締役会の出席義務はありません。

一般的に、創業からアーリーステージは、上記機関設計で対応できますが、最近はシード期から数億円の調達が実現するケースもあり、資本金の額によって以下に述べる次段階の機関設計に早期に移行すべき場合もあります。

ミドルステージから上場準備期

この時期になると、組織として、コンプライアンスの重視が叫ばれ、組織として、きちっとやっていきましょうということが求められます。

そこで、取締役会十会計監査人(+監査役会)が、必要になっていきます。

資本金が5億円以上になると、会社法上の「大会社」に該当します。大会社になると、会計監査人の設置が会社法上、義務づけられます。

例えば、監査法人等との契約が必要となり、監査コストが大幅に増大します。

必須ではありませんが、このタイミングにあわせて監査役会も設置し、上場に耐える機関設計に移行する例もあります。

上場対応:取締役会十監査役会十会計監査人

上場する場合、上場申請前の段階で、取締役会+監査役会+会計監査人の機関設計に移行するのが通常です。

会社法上、大会社でかつ公開会社の場合には、監査役会および会計監査人の設置が義務づけられ、また大会社でなくとも上場規程上、それらの設置が必要とされるためです。

監査役会は3名以上の監査役を要し、うち1名以上は常勤、半数以上は社外監査役の要件を満たす必要があります。厳密な要件は省略しますが、社外監査

厳密には、事業年度末までに資本金5億円以上になった場合に、その事業年度の定時総会のタイミングで大会社になります。

過去10年間当会社または子会社の取締役や使用人等でなかった等の要件を満たす必要があります。このような常勤および社外の監査役の適切な人材を確保することが課題になります。

なお、証券取引所のルールにより、上場会社は「独立役員」(一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役)を1名以上確保することが必要とされており、社外役員のうち1名以上はその要件を満たす必要があることにも留意が必要です。

委員会制度について

上場対応としての監査役会および会計監査人の設置について説明しましたが、上で少し触れたとおり、監査役会の代わりに、委員会制度を採用することも可能です。

この場合「監査役」は不要で、取締役が業務監査の役割も担います。委員会の制度には「指名委員会等」と「監査等委員会」の2種類があります。

①指名委員会等:取締役会+会計監査人+3委員会(+執行役)

「指名委員会」「報酬委員会」「監査委員会」の3つの委員会を置く制度で、各委員会は3名以上の取締役(うち過半数は社外取締役)から構成されます。それぞれ、取締役の指名、取締役の報酬決定、業務監査等の役割を担います。

指名委員会等設置会社では、取締役とは別に「執行役」およびその代表となる代表執行役を取締役会決議で選任し、業務の執行は代表執行役によって行われます。執行役は取締役である必要がないため、この点代表取締役(=取締役でもある)が業務を執行する通常の形態と異なります。

しかしながら実務では、旧来の制度との相違点による違和感や、指名委員会や報酬委員会を通じて社外取締役に取締役の指名や報酬の決定権を握られる抵抗感から、まだそれほど活用されていません。

②監査等委員会:取締役会+会計監査人+監査等委員会

2015年5月施行の改正会社法で導入された制度であり、監査等委員会は3名以上の取締役(うち過半数は社外取締役)から構成されます。

監査等委員会の主な役割は業務監査であり、監査役会設置会社における監査役会に類似したものです。

監査等委員会の構成員となる取締役の選任やその報酬は、株主総会でその他の取締役と区別して決議され、監査役に準じた独立性が担保されています。

指名委員会等と異なり、この機関設計では「執行役」の制度はなく、「取締役会+会計監査人+監査役会」の監査役会が、監査等委員会に入れ替わるイメージに近くなります。

上記会社法改正では、社外取締役を置かない上場会社はその理由の説明が義務づけられるようになり、社外取締役を置かない上場会社への風当たりが強くなっています

その中で、従来型の監査役会設置会社が社外取締役を確保しようとする場合、2名以上の社外監査役とは別に社外人材(合計3名以上)を確保する必要があります。

この点、監査役等委員会を採用すれば、社外人材は監査等委員会を構成する社外取締役2名で足り、これをもって社外取締役を置くニーズも満たすことができます。

このため、今後上場会社では本制度の活用が広がっていくことが見込まれており、ベンチャーの上場申請前の機関設計としても、このパターンが採用されていく可能性があります。

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