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スタートアップやベンチャー企業にとって「ライセンス契約」は重要
スタートアップやベンチャーにとっては、自社のコンテンツやサービスを他社にライセンスすることによって、収益を得ることが考えられます。
このようなときに、重要になるのが「ライセンス契約」です。
実際に、ライセンス契約を締結するときに、どういうことに注意しておけばよいのでしょうか?具体的にみていきましょう。
ライセンス契約で確認すべき項目
ライセンス契約において、確認すべき項目は、以下の通りです。
- 対象物を明確にする
- ライセンス料の形態を決める
- 独占/非独占を明確にする
- 利用目的が制限されている場合
- 競業禁止規定について
- 保証の範囲と免責の内容
- 有効期間の確保
- ライセンス契約が終了した時の対応
各項目について具体的にみていきましょう。
1. 対象物を明確にする
まず、ライセンスの対象物を適切に特定することが重要です。なぜなら以下のような場合に、 どの形態について、ライセンスが許諾されているのかを明確にしておく必要があるからです。
- 対象物がさらに改良された場合に、その改良物もライセンスの対象に含まれるのか
- 対象物について異なる形態が想定される場合(例えば、オブジェクト・コードとソース・コード等)
IPOにあたり、ライセンス契約を重要な契約として開示する場合には、契約の対象物が不特定であると問題となることがありますので、しっかりと対象物を特定しておく必要があります。
2.ライセンス料の形態を決める
ライセンス料の形態には主に以下のものがあげられます。
- 契約締結時の一括払いの実施料などの定額ライセンス料の形態
- 一定期間ごとに収益に応じたロイヤルティを支払う形態
- ライセンスを利用した事業の段階等により設定されたマイルストーン支払いの形態
- 上記の形態を折衷したもの
- 上記のミニマムロイヤルティなどの条件が組み合わされる形態
いずれがよいかは、見込まれる収益や具体的な金額およびロイヤルティ率等に応じて個別に判断することになります。
注意するべきこと
IPOとの関係で特に問題となるのは、当該ライセンス料の定めが会社にとってリスクとして開示するべき性質のものかという点です。
例えば、 バイオベンチャーがライセンシーとなる場合、創薬開発の段階等に応じてマイルストーンが設定される場合があります。
このマイルストーンの設定自体は特に問題ではありませんが、ライセンス料支払いのタイミングによってはリスクになり得ます。
新薬が開発され、適切な認可を取得し、売上が発生する前の段階で、マイルストーンに基づく巨額のライセンス料を支払うことは、まだ資金的な余力がないベンチャー企業にとっては大きなリスクとなるからです。
また、時として売上に連動しないミニマムロイヤルティの設定も、リスクとなる場合があります。
このような、マイルストーンやミニマムロイヤルティの存在についてはIPOにあたり開示対象となる可能性があルため、将来多額のライセンス料の発生が予定されている場合は、特にIPO時の開示の可能性も考慮する必要があります。
なお、長期間分のライセンス料をまとめて前払いするケースでは、期間途中でライセンス契約が終了した場合の返金の取扱いについても明確にしておく必要があります。
3.独占/非独占を明確にする
ベンチャーのライセンス交渉においては、「独占」か否かが重要な交渉テーマとなることが多いです。
しかし、 この「独占」という用語自体は法律で規定されているわけではありません。
そのため、以下のの2点から、 この「独占」の意味について、明確に定義する必要があります。
- ライセンシー以外の第三者が当該ライセンス対象物を使用することができるのか
- ライセンサー自身がそのライセンス対象物を使用することができるのか
また、 「独占」に関し、特定の製品、利用目的、テリトリーなどについて、契約によっては例外が定められている場合もあります。
独占権に例外が設定されている場合、当該契約がIPO時に重要な契約として開示対象となる場合には、単に「独占」とだけ記載すると不十分な開示になってしまう可能性もあり、 その独占権の例外について何らかの開示を行わなければならない可能性があります。
ビジネス上、独占権の例外として許容できることと、それが一般的に開示対象になってよいこととは多少異なる考慮が働くため、重要なライセンス契約において独占権の例外が設定される場合には、この点も意識しておく必要があります。
一方、ライセンサーとなる場合において、ライセンシーに「独占権」を付与すると、ライセンサーは、独占権を与えたライセンシー以外からライセンス料を得ることができなくなってしまいます。
そのため、独占権を認める場合(かつ、収益に応じたロイヤルティを支払う形態の場合)には、一定額のライセンス収入を確保するという観点から、ライセンシーが支払わなければいけないライセンス料の最低額(=ミニマムロイヤルティ)を定めておくことが必要です。
基本的には、収益に基づき算出したライセンス料を支払わせることにしつつも、当該ライセンス料がミニマムロイヤルティを下回った場合でも、ミニマムロイヤルティの支払いを義務づけるとともに、条件不達成の場合に、以下のような内容を検討することが重要となります。
- 契約を解除できるようにする
- 独占権を非独占権に変更できるようにしておく必要がないか
4.利用目的が制限されている場合
ライセンスの中でも、あらゆる利用が許される場合と利用形態や利用目的が制限されている場合があります。
そのため、 自社がライセンシーであり、 ライセンス契約において、 利用態様が細かく列記され制限されている場合には、 自社が予定している利用態様が全て包摂されているかを慎重にチェックする必要があります。
契約の中には、再許諾権の有無が明記されていないライセンス契約がありますが、ライセンス対象物を組み込んだ製品を顧客に販売する場合などを想定しているのであれば、再許諾権の有無はその後の事業展開に大きな影響を及ぼす可能性がありますので、この点を明確にしておくことが大切です。
5. 競業禁止規定について
契約上の競業禁止規定については、注意が必要です。
ビジネス上、競業禁止規定を受け入れざるを得ない場合でも、取扱いが禁止される類似品の範囲を明確にすることが重要です。
また、IPOの審査にあたり、会社の利益計画の基礎となっている現在または将来の事業がその竸業禁止規定に抵触していないかがチェックされるのが通常です。
IPOの審査にあたり、競業禁止規定に抵触しているものの、 ライセンサー側もその点は了解しているので問題ないという主張がなされる場合もありますが、その場合には、基本的には、競業禁止規定を修正するか、そのライセンサー側から当該競業行為を認める旨の確認書を取得することが必要となり、このような対応が不可能であると、IPOの審査にあたり重大な影響を及ぼす可能性もあります。
自社がライセンシーの場合には、類似品の取扱い等を禁止する競業禁止規定が要求される場合があります。
特に、独占権の付与を受ける場合には、ライセンサーにとっては、他のライセンス収入の途が閉ざされることになるので、競業禁止を要請する動機が強くなります。契約書の条項の表題において競業禁止という題名がなかったとしても、よく読むと競業が禁止されていることもあるので、この点は特に気をつける必要があります。
6. 保証の範囲と免責の内容
ライセンス対象物についての保証の範囲や、ライセンサーが負担する責任の内容も、契約上、重要なポイントとなります。
ライセンシーにとっては、ライセンサーの保証の範囲を広く確保しておいたほうが望ましいので、ライセンス対象物の適法性やライセンス対象物が第三者の権利を侵害しないことについて、ライセンサーにしっかりと保証させたうえ、このような保証違反があった場合には、契約の解除や損害賠償を請求できることを明記することが重要です。
一方、ライセンサーの立場になった時、 特にベンチャーである場合には調査能力にも限界があるうえ、実際にライセンス対象物の適法性や第三者の権利を侵害していないかどうか調べたものの、契約締結時点において、違法の事実や侵害の事実が発見されなかったということもありえます。
したがって、ライセンサーとしては、ライセンス対象物の適法性、瑕疵が存在しないこと、第三者の権利を侵害しないこと等について保証しない旨を定めておいたほうがよいでしょう。
仮に、このような保証を受け入れざるを得ない場合でも、上記のような事情を踏まえ、例えば「ライセンサーが知る限り、ライセンス対象物が第三者の知的財産権を侵害していないこと」といった限定を付しておくのが望ましいと言えます。
7.有効期間の確保
会社のビジネスの根幹となっているライセンスについて、その有効期間の確保はライセンシーの事業戦略上、重要であるのみならず、IPOとの関係でも重要です。
そのようなライセンスに関する契約書は、IPOにあたり開示される可能性があり、その際に有効期間は必須の記載事項となります。
この期間が短い場合には、ライセンシーの将来の業績に重大な影響を及ぼす可能性があり、リスクとしての開示も必要となるかもしれません。
また、ライセンサー側から提示された契約書においては、ライセンサーからの一定期間前の書面通知により、いつでも解除されるような規定が含まれる場合が多いので、この点にも、注意が必要です。
8.ライセンス契約が終了した時の対応
ライセンス契約終了時の対応も、考慮しておく必要があります。
例えば、 ライセンスに基づいた製品の製造を行い、 契約終了時に大量の在庫が存在する可能性がある場合、 ライセンス終了時の在庫の取扱いについて明確にしておくことが望ましいです。
また、サブライセンスを行っている場合には、何も対策がないとライセンス終了時にそのサブライセンスも実行できなくなってしまうため、サブライセンスの取扱いも明確化しておく必要があります。