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利用規約は、契約書の代わりになるもの
ウェブサービスにおいて、必須の規定と言えば、利用規約です。
利用規約とは、対面契約でいう「契約書」の代わりになるものです。通常の対面での契約は「契約書」という書面を相手方と署名して押印して、お互いに1通ずつ保管するというやり方をします。これが契約の原則的な形です。
しかし、ウェブサービスの場合、ユーザーは全国、もしかしたら、全世界にいるかもしれません。そんなユーザーに対して、いちいち契約書を交わす、そんなことは現実的には不可能ですよね。そこで、ウェブサービスの多くは、予め「利用規約」を作成するのです。
このように、利用規約は、事業者とユーザーとの契約書の代わりとなる重要なものなのです。
利用規約は、トラブルになったときの拠り所
あなた自身がウェブサービスを利用するときのことを想像してみてください。
あたなは、ウェブサービスの利用を開始する際に、じっくり利用規約を読みますか? この質問に対して、自信を持って「はい!」と答えられる人がどのくらいいるでしょうか。たいていのユーザーが、利用規約をきちんと読まずにウェブサービスを利用します。利用規約を読むのは、全体の15%ほどというデータもあるくらい、たいていの人はきちんと見ていないのです。
そうすると、誰も見ていないから、利用規約はテキトーに決めていいのではないか?と思われるかもしれません。
しかし、利用規約は、前述のとおり、契約書の代わりになるものです。ユーザーとのにトラブルが訴訟に発展したときに、最終的な拠り所となるのが、利用規約なのです。また、利用規約には、クレーム対処機能があります。
ユーザーの方と、トラブルになったときに、ユーザーから事業者に対して、クレームがつけられる可能性があります。そのときに、利用規約を定めておけば、ユーザーに対し「利用規約のに規定に定められている○○条によれば、△△と規定されています。
よって、当社としては、利用規約に則りこのような対策を取りました」と反論をすることができます。このような返答でクレーマーが納得するとは限りませんが、少なくとも、客観的な基準を根拠に交渉できることになり、クレーマー対策ははるかに楽になります。
利用規約は、一方的に事業者に有利な規定をいいの?
ここまで見てくると、利用規約は、きちんと定めておく必要があることがおわかりになったと思います。
先ほど、利用規約は「契約書の代わり」になるものとお話ししましたが、契約書にはない「利用規約の特徴」があります。
それは、事業者が一方的に規定の内容を決められるということです。
通常の契約書ですと、契約当事者双方が、契約書のチェックをして、ここは受け入れられない、ここは修正してほしいとった契約交渉をします。しかし、利用規約の場合は、ユーザーに対して、規約を表示し、同意するかしないかを問うだけです。このように修正してほしい、といったやりとりはそこに介在しません。
そうすると、利用規約は事業者が決められるのだから、一方的に有利な利用規約を作成したいと思うかもしれません。それでは、事業者に一方的に有利な条項を規定してもいいのでしょうか?
一方的に有利な利用規約を作成するリスク
弊社には、年間100件以上の利用規約の作成相談がきます。そのときに、相談者がよくおっしゃられるのが「責任は取りたくないんです」です。
それでは、利用規約において「当社は、本サービスの利用に関し、ユーザーに対し一切の責任を負わない」といった表現は、有効なのでしょうか?
(1)消費者契約法による無効になるリスク
結論から言うと、このような条項は無効になる可能性が高いのです。なぜかと言えば、消費者契約法という消費者を保護する法律があり、その消費者契約法では、次の点について無効と規定しているためです。
- 事業者の損害責任を全部免除する条項
- 事業者に故意または重過失がある場合に、損賠賠償の全部または一部を制限すること
したがって、ウェブサービスの利用規約で「ユーザーが本サービスを利用したことによって生じた損害については、事業者は一切の責任を負わない」とすることは、この消費者契約法によって、無効になる可能性が高いのです。
(2)炎上リスク
一方的に有利な利用規約を作成することのリスクは、法律面のことだけではありません。
例えば、2014年9月には、ユニクロのオリジナルTシャツ作成サービス「ユーティーミー(UTme!)」が、ネットユーザーから反感を買い、大炎上することになりました。なぜかというと、次のような規定があったからです。
この利用規約は、ユーザーがユーティーミーでつくったオリジナルTシャツの著作権が、すべてユニクロに無償譲渡されてしまうという規定になっていたのです。
この利用規約に対し、ネットユーザーからの批判が殺到し、ユニクロは、わずか1日で「著作権はユーザーに帰属する」という規約に変更を余儀なくされました。
また、テレビ朝日が、動画投稿サイト「みんながカメラマン」というサービスをリリースしたのですが、その利用規約の中で、「ユーザーが投稿した動画については、タダで利用はするけれど、責任はユーザーが取ってね」という規約がありました。
この規約も、サービスをリリースをしたその日に炎上してしまい、利用規約を改定せざるを得なくなりました。
ユニクロ、テレビ朝日と言えば、日本を代表する大企業です。当然、そこにはきちんとした法務部や優秀な弁護士さんがついているはずで、そんな企業が作成した利用規約が、なぜこのように炎上してしまうのでしょうか?
このユニクロやテレビ朝日の利用規約ですが、法律的には間違ったことを規定はしていません。むしろ、この利用規約は、自社の利益を最大化する一方、リスクは最小限に回避するという、当然のことをしているようにも思えます。
では、何が問題がというと、利用規約の特性を理解していないことが、最大の問題なのです。
1対1の紙の契約書を取り交わすのであれば、一方的に有利な規定をしても、相手方しか見ないですし、嫌なら契約をしなければいいだけの話になります。
しかし、ウェブサービスの利用規約の場合には、いつでも誰でも(サービスを利用しない人でも)見ることができます。ここが、1対1の関係で、紙の契約書を締結する場合との大きな違いです!
利用規約を見た人の中に、利用規約の問題点に気づき、SNSなどで拡散し、それに乗っかる人が出てきて、炎上する。利用規約は、そのようなことが起こり得るのです!
以上のように、利用規約を作成する場合において、事業者側に一方的に有利な規定を作成してしまうと、法律上や炎上リスクを抱えることになるのです。
利用規約を作成する方法
それでは、利用規約は、どのように作成したらよいのでしょうか?
利用規約を作成する場合には、以下の方法があります。
- 類似サービスの利用規約を参考にする(そのまま、パクる)方法
- 弁護士に依頼をする
類似サービスの利用規約を参考にする場合
①の他者の類似サービスを参考にするというのは、ある程度は有効であると思います。ただ、あくまでも「類似」サービスですので「類似サービス」とは違う、あなたのサービス「独自」(オリジナル)の部分があるはずです。
類似サービスを模倣して(パクって)しまうと、この「独自」部分について、効果的な規定が定められなくなってしまいます。
他社サービスにはない、あなたのサービスの「独自」部分は「強み」部分でもあるのですから、この点について、効果的な規定を置かなければいけません。
また、他社の利用規約をそのまま模倣してしまうと、著作権法違反になってしまう可能性もあります。利用規約は、そもそも「著作物」と言えるのかが問題となりますが、東京地判(平成26年7月30日)は、以下のように判示しています。
「通常の規約であれば、ありふれた表現として著作物性は否定される場合が多い。しかし「規約であることから、当然に著作物性がないと断ずることは相当でなく、その規約の表現に全体として、作成者の個性が現れているような特別な場合は、当該規約全体について、これを創作的な表現と認め、著作物として保護すべき場合も有り得ると解するのが相当である。」
つまり、この裁判例は、利用規約にも著作物性を認めたのです。
もちろん、この裁判例でも「通常の規約であれば、ありふれた表現として著作物性は否定される」としているので、すべての規約が「著作物」とは言えないわけですが「通常の規約」か、そうでないかを見極めるのは容易ではないと思います。
その意味でも、他者の利用規約を模倣してしまうのは得策ではないのです。
弁護士に利用規約作成を依頼する場合
②の弁護士に利用規約の作成を依頼するというのは、賢明な判断だと思います。
ただ、弁護士もあなたのサービスを正確に理解してくれているかはわかりません。弁護士が作成した利用規約をそのまま鵜呑みにしてしまうのではなく、やはりご自身でも、利用規約の作成のポイントを知っておく必要があります。
そこで、利用規約を作成するうえでの押えておくべきポイントを見ていきましょう!
禁止事項
まず「ユーザーにこれをされたら、困る」という行為を規定しておきます。次に、禁止行為をしたときの制裁も規定しておくとよいでしょう。一例を次に挙げます。
本サービスの利用に際し、当方は、ユーザーに対し、次に掲げる行為を禁止します。違反した場合、利用停止等、当方が必要と判断した措置を取ることができます。
- 当方または第三者の知的財産権を侵害する行為
- 当方もしくは第三者の名誉・信用を毀損する行為、または当方もしくは第三者を不当に差別もしくは誹謗中傷する行為
- 当方もしくは第三者の財産を侵害する行為、または侵害する恐れのある行為
- 当方または第三者に経済的損害を与える行為
- 当方または第三者に対する脅迫的な行為
ユーザーがコンテンツや書き込みを投稿するタイプのサービスでは、ユーザーに違法な書き込み、公序良俗に反する書き込み(エログロ等)を、次の例のように禁止事項として規定しておくことが必要です - ユーザーが、以下の情報を投稿すること
- 第三者の権利及び財産に対して損害を与えるリスクのある情報
- 第三者に対して有害な情報、第三者を身体的・心理的に傷つける情報
- 犯罪や不法行為、危険行為に属する情報及びそれらを教唆、幇助する情報
- 不法、有害、脅迫、虐待、人種差別、中傷、名誉棄損、侮辱、ハラスメント、扇動、不快を与えることを意図し、もしくはそのような結果を生じさせるおそれのある内容を持つ情報
- 事実に反する、または存在しないとわかっている情報
- ユーザー自身がコントロール可能な権利を持たない情報
- 第三者の著作権を含む知的財産権やその他の財産権を侵害する情報、公共の利益または個人の権利を侵害する情報
- わいせつ、児童ポルノまたは児童虐待にあたる画像、文書等の情報
また、どれだけ禁止行為を列挙しても、すべての禁止行為を網羅することは不可能です。そこで、禁止行為の最後に「事業者が不適切と判断する行為」を入れることで、網羅的に禁止行為を規定する(例:(7)上記の他、当方が不適切と判断する行為)ことができます。
利用規約の変更
サービスを展開していくうちに、利用規約を変更したいと思うこともあるでしょう。
利用規約の変更は、ユーザーとの契約変更ですから、本来であれば、各ユーザーとの間で個別に利用規約の変更について、変更の同意を取らないといけません。しかし、多数のユーザーを抱えているウェブサービスにおいて、これは現実的ではないですよね。
そこで、利用規約の変更については、ウェブサイト上に利用規約を変更する旨を掲示し、その後、ユーザーが利用した場合には、利用規約が変更されたものとみなすという規定を(当初の)規約に盛り込んでおけば、事業者にとっても便利です。
例えば以下のように規約に盛り込んでおくことができます。
- 当社は本利用規約を変更する場合には、利用規約を変更する旨を当社ウェブサイトに掲示するものとし、ユーザーは利用規約変更後、サービスを利用した時点で、変更後の利用規約が適用されるものとします
免責規定
ウェブサービスを利用するうえで、色々なトラブルが予想されます。そのときに、すべてのトラブルについて事業者が責任を負っていたのでは、ウェブサービスを継続しておくことはできません。そこで、事業者の責任を回避する免責規定を置く必要があります。
事業者としては「一切の責任を負いたくない!」と思うかもしれませんが、消費者契約法という法律により、すべての場合について一切の責任を負わないという規定は無効になる可能性が高いのです。そこで、以下のような規定を置くことをおススメします。
- 当方は、ユーザーのPC利用環境について一切関与せず、また一切の責任を負いません
- 当方は、本サービスの内容変更、中断、終了によって生じた、いかなる損害についても、一切の責任を負いません
- 当方は、本サービスの各ページからリンクしているホームページに関して、合法性、道徳性、信頼性、正確性について一切の責任を負いません
- 当方は、本サービスを利用したことにより直接的または間接的にユーザーに発生した損害について、一切の賠償責任を負いません
- 当方は、ユーザーその他の第三者に発生した機会逸失、業務の中断その他いかなる損害(間接損害や逸失利益を含みます)に対して、当方が係る損害の可能性を事前に通知されていたとしても、一切の責任を負いません
- 第1項ないし前項の規定は、当方に故意もしくは重過失が存する場合または契約書が消費者契約法上の消費者に該当する場合には適用しません
- 本サービスの利用に関し当方が損害賠償責任を負う場合、ユーザーが当社に本サービスの対価として支払った総額を限度額として賠償責任を負うものとします
- ユーザーは、本サービスの利用に関連し、第三者に損害を与えた場合または第三者との間に紛争を生じた場合、自己の費用と責任において、係る損害を賠償または係る紛争を解決するものとし、当方には一切の迷惑や損害を与えないものとします
- ユーザーが本サービスの利用に関連して当方に損害を与えた場合、ユーザーの費用と責任において当方に対して損害を賠償(訴訟費用及び弁護士費用を含む)をするものとします
ここでのポイントは、第6項で故意または重過失がある場合には、免責規定は適用しないとしている点です。この規定を置くことで消費者契約法上無効になることを防いでいます。
そして第7項で、事業者が損害賠償を負う場合でもその限度額を定めています。
ケースによっては多額の損害賠償を請求される場合もあります。そういった場合に、この損害賠償制限規定を置けば、事業者がユーザーに支払うのは、最大でもユーザーから受け取った金額のみです。
つまり、事業者にマイナスはないことになります。このように、事業上のリスクについては、なるべく回避するようにしましょう!
権利譲渡の禁止等
ウェブサービスを運営している場合、事業者とユーザーとの間では、ウェブサービスの利用契約が締結されています。
そこで、ユーザーは事業者に対して、ウェブサービスを利用する権利が生じています。この権利は、法律上は自由に譲渡することができるのです。しかし、ユーザーがウェブサービスを利用する権利を、第三者に譲渡できるとすると、事業者としては、ユーザーを把握することが難しくなり、かなり手間を要しますよね。
そこで、原則としてユーザーの権利譲渡を禁止する、次のような規定が必要となります。
- 第●条(権利譲渡の禁止)
- ユーザーは、予め当方の書面による承諾がない限り、本規約上の地位及び本規約に基づく権利もしくは義務の全部または一部を第三者に譲渡してはならないものとします
準拠法及び管轄裁判所
これまで繰り返し述べていますが、ウェブサービスの最大の特徴は、地域を問わず、多くの人に利用してもらえることです。
地域を問わないので、日本全国のみならず、全世界がターゲットになり得ます。外国の人も利用するかもしれないことを想定した場合、外国の人とトラブルになった場合には、日本の法律が適用されるのでしょうか?
法律上は、国際私法という法律に則ることになり、場合によっては、外国の法律が適用されることになる可能性があります。
外国の法律が適用されるとなると、その国の法律専門の弁護士を探さなければならず、ものすごく手間もお金もかかります。日本の事業者であれば、日本の法律が適用されるようにしたいですよね。そこで、次に示す例のように、利用規約に予めトラブルになったときは、日本法が適用されることを規定しておけばいいのです。
- 第●条(準拠法)
- 本規約の有効性、解釈及び履行については,日本法に準拠し、日本法に従って解釈されるものとする
ユーザーと紛争になった場合に、最終的には裁判という形で決着することになります。そこで、裁判をすることになった場合に、裁判所はどこで行うことになるのでしょうか?
例えば、東京の事業者と東京のユーザーとの間の紛争であれば、東京地方裁判所になります。
ただ、ウェブサービスは地域を問わず、ユーザーがいるのが特徴です。そうすると、東京の事業者と札幌のユーザーが争うこともあり得るわけです。このような場合、札幌の裁判所で裁判しないといけない可能性もあります。
東京の事業者からすると、札幌の裁判所に行くのも大変ですよね。そこで、予め「裁判をするならここ」というのを決めておくことが便利です。通常は、次の例のように、事業者から一番近い裁判所を規定することになるでしょう。
- 第●条(管轄裁判所)
- ユーザーと当方との間で訴訟が生じた場合、東京地方裁判所または東京簡易裁判所を専属的管轄裁判所とします
利用規約はユーザーの同意が必要
前節までを参考にして、利用規約を作成したとしても、ユーザーから同意を取らないと有効にはなりません。
それもただ、同意を取るだけでなく、きちんとした形で同意を取らないと、せっかくつくった利用規約が無効になってしまうかもしれないのです。
よく「利用規約を作成して、Webサイト上に掲載しておけば、効力があるんですよね!?」と言われる方がいらっしゃいますが、これは間違いです。
利用規約は、ユーザーに利用規約を見てもらったうえで、同意してもらう必要があるのです。
事業者として考えなければいけないのは、以下の2点です。
- 利用規約の表示方法
- ユーザーからの同意の取得方法
では、具体的にどのようにWebサイトで利用規約を表示すればいいのでしょうか。大事なのは、以下の2点です。
- サービス申込時における利用規約の全文表示
- 「利用規約に同意する」チェックボックスにチェックを求める
きちんと利用規約の全文を表示し、ユーザーからの同意を得ているので、同意を取得する方法としては、確実性が高いのです。全文表示といっても、スクロールで全文確認できる方法でも構いません。
しかし、このパターンでは、ユーザーが長い利用規約にうんざりしてしまう、スクロールやクリック数の多さに嫌気がさして、申込みから離脱してしまうことが考えられます。
そこで、お勧めする「ユーザーから同意を得る方法」は、以下のようなものです。
- 申込みボタンの「利用規約に同意して申し込む」といったボタンを設置する
- 設置してボタンのそばに、利用規約のハイパーリンクにより、利用規約へアクセスできるようにしておく
この方法であれば、利用規約を確認したいユーザーは、利用規約を確認することができますし、利用規約に関心のないユーザーもストレスを感じることなく、同意をすることができます。
経済産業省が発表している「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」においても、ハイパーリンクによる利用規約の表示を認めています。
このように、利用規約にしっかりと同意させ、営業上の観点も忘れずに、インターネットビジネスを成功させるためには、①事業上の側面と、②法的側面から考える必要があるのです。