弁護士が明かす!企業が種類株式や投資契約を活用するときの注意点【2020年8月加筆】

資金調達で必要な法律

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種類株式発行のポイントとは

スタートアップやベンチャー企業の運営において、特定の株主について権利を制限したい特定の株主について権利を与えたいという要望があります。

例えば、資金調達はしたいけど、経営には口を出されたくないといった場合です。出資者側も、口を出すつもりはなく、配当などで、優遇されればよいと思っている場合もあります。

そこで、今回は、種類株式発行のポイントを解説していきます。

議決権制限株式

議決権制限株式は、株は持っているけど、議決権はないという株式です。

株主も、配当などには興味があるけど、経営方針には、興味がないという株主も多いので、このような株主が発行されることがあります。

創業者としても、資金調達はしたいが、経営に口を出されるのは勘弁という場合には、この株式が使えます。

ベンチャーキャピタルからの出資については、議決権制限株式がされることは稀ですが、事業会社が出資する場合には、経営方針に口を出す意図はなく、経済的な支援と業務提携を目的としているようなケースもあります。

このようなケースでは議決権制限株式が受け入れられる場合があり、活用されるケースがあります。

役員選任権

種類株式の中に、種類株主総会において取締役または監査役を選任することを定めることが可能です。

取締役等の解任についても、その取締役等を選任した種類株主総会の特別決議で行うことができます。つまり、取締役の選解任については、種類株主のお許しを頂くというイメージです。

このような取締役の選解任の権限については、投資契約書で規定することもできます。

つまり、投資契約であれば特定の投資家にのみ指名権を与えることが可能です。

一方、種類株式の役員選任権を利用する場合には、本来役員指名権など全く有しない持株比率の低い株主に対しても投資家の指名する取締役候補の適否について、意思決定に参加させる必要性が生じます。

さらに、投資時点では役員選任の株主総会での議決権の過半数をおさえていたとしても、ベンチャーが資金調達のラウンドを重ねていく過程で持株比率が下がり、実質的に役員の選任権を失ってしまうことも考えられます。

上記のように、取締役の選任、解任について、種類株主総会の決議事項とするかどうかは、慎重な判断が必要です。

種類株主総会決議事項とするか、投資契約とするか

以上のように、種類株式を発行している会社は、ある事項を種類株主総会決議事項とすることが考えられます。
一方で、特定の株主との間での投資契約の条項に、規定しておくことも考えられます。

投資契約等は「契約」にすぎないため、投資家の拒否権を無視されて取締役会決議等が行われてしまった場合、契約違反としての責任は発生するものの、当該決議自体は、有効となってしまいます。

これに対して、定款で種類株主の決議事項とすれば、種類株主総会決議なく決定された事項は、効力がなくなるのです。

ただし、あまりに細かい事項について種類株主総会決議事項とすると、本来は取締役会で機動的に決議して迅速に対応するべき事項について、逐一種類株主総会を開催する必要が生じてしまい、会社の意思決定の迅速性に支障が生じる可能性があります。

また、投資家としても、投資契約等での拒否権であれば、自己のみが拒否権を保有できるところを、種類株主総会決議事項とすると、その種類株式を持っているが、持株比率が低い投資家も、意思決定に参加させる必要があり、自分だけでの判断ができなくなります。

さらに、スタートアップ・ベンチャーの場合、資金調達のラウンドを重ねていくことが多く、投資時点では種類株主総会での議決権の過半数をおさえていたとしても、その後の新株発行で持株比率が下がり、実質的に拒否権を失ってしまうことも考えられます。

これに対し、投資契約等で拒否権を定めた場合には、契約を修正しない限りこのような事態は生じません。

また、現実的には、投資契約の違反については、契約条項に定めておけば、経営者による株式買取義務などのペナルティーも生じます。そのような中、投資契約の拘束力は必ずしも弱いとはいえません

企業としては、種類株式総会の決議事項とするのか、投資契約の定めとするのかは、注意が必要なところです。

種類株主総会決議事項の定めは、会社の迅速な意思決定を阻害する可能性があること、種類株主総会決議事項とすることによって、かえって他の持株比率の低い株主に無用な権利を与えてしまう可能性があること、その後の持株比率の低下で実質的に拒否権を失ってしまう可能性があること等を考慮して、どの事項を種類株主総会決議事項とするべきかを慎重に検討する必要があります。

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