ベンチャーキャピタル投資の際に問題となる「投資契約」のチェックポイント

契約書解説

komon5000

投資契約とは

ベンチャーキャピタルから投資を受けるにあたり、投資契約を結んでほしいと言われることがあります。

なぜ、投資契約は必要なのか、一般的に投資契約にはどんなことが書いてあるか、契約内容では、どんなことに注意すべきかを解説していきます。

投資契約の必要性

VCから投資を受ける際には、投資契約を提示されるのが通常です。

しかし、投資契約は、株式を発行するために必須のものではなく、法律上は必要なものではありません。

創業メンバーが株式を取得するときや、エンジェルから投資を受けるときには、このような投資契約がないのが一般的です。

ベンチャーへの投資の場合には、ベンチャーの成長のために必要な資金を主に株式への出資という形で拠出して、当該企業が成長し、株式公開(IPO)または買収(M&A)などに伴い株式を売却することで、売却益(キャピタルゲイン)を得ることを目的として行われることが通常です。

投資家としては、企業の将来的な成長に期待して資金を託すものであるため、この資金の使用に関して、企業が想定外のことを行わないよう、ある程度の約束をしてもらう必要があります。

特に、VCのようなプロの投資家は、ファンドという形で第三者の資金を集めてそれを運用しているため、自分たちのファンドに投資している投資家との関係でも、ファンドから投資をしたベンチャーの状況を適切に把握して、必要な行為を行う必要があります。

そのため、投資契約は、基本的には投資家側から提示されることが多く、ベンチャー側にとっては制約が大きく「できれば避けたい」と思いがちですが、他方で、一度株主になったら容易に関係を終了させることは難しく、長いお付き合いになることから、経営に関する事項、株式に関する事項などをあらかじめきちんと決めておいたほうが、その後の円滑な関係にとってはプラスになる面もあります。

よって、内容をきちんと吟味する必要があります。

投資契約の内容で確認をすべきこと

投資契約は、分量が多いことが多く、ベンチャー企業の経営者からすると、その分量と内容に圧倒されるかもしれません。

しかし、上記のように、投資してもらう際の条件を定めるものですので、一度結んでしまうと、長期間にわたって拘束されるものです。

そのため、投資契約の内容については、吟味する必要があります。

投資条件

株式の種類、株式数、株価、払込金額の総額等、投資に関する条件を定めるものです。ここは、株式数、金額などが規定されているところなので、非常に重要です。

従前の交渉の通りの株式数、金額になっているかの確認が必要です。

表明保証条項

投資家に事前に提出した財務諸表が正しいことなど、一定の事項を投資家に対して表明し、保証する規定や、投資契約締結後払込みまでの間に、後発事象が生じていないことや、株主総会議事録など一定の書面を提出してもらうことを払込みの条件とする規定です。

会社としては、どこまでが、正しい情報で、保証できるのかを吟味する必要があります。

株式に関する事項

株式を譲渡することの可否や、他の株主が株式を譲渡する場合に自分が優先的に買うことができる権利(優先買取権)、逆に他の株主が株式を売る場合に自分の株式も一緒に譲渡できる権利(譲渡参加権)など、株式の取扱いに関する規定です。

会社の運営に関する事項

取締役やオブザーバーの派遣、一定の重要事項についての承認や通知、財務諸表等の書類や情報の提供など、会社の運営に関する投資家の権利等を定める規定です。

投資の撤退に関する事項

万一、投資契約の違反があった場合等に投資家が株式を発行会社や起業家に売却して投資から撤退できることを定める規定です。

投資契約の規定は、大まかに分けると上記の構成に分かれているため、各規定が何を目的とするものかをよく理解して、起業家と投資家の間で建設的な交渉を行うことが望ましいといえるでしょう。

株主間契約と投資契約の違い

スタートアップ・ベンチャー企業では、株主間契約をする場合があります。株主間契約と投資家契約の違いは、なんでしょうか?

投資契約は「契約」である以上、契約当事者しか拘束することはできません。

例えば、社長の持株比率が30%、投資家の持株比率が10%の状態で、投資家、社長、発行会社の三者で投資契約を締結した場合、その契約で投資家の取締役選任権を定めても、契約当事者である社長と投資家では議決権比率が合計で40%しかなく、過半数に満たないので、投資家の指定した者が取締役に選任されない可能性があります。

よって、株主が複数人いる場合には、社長以外の株主とも、取り決めをしておく必要があるのです。その取り決めが、株主間契約です。

そこで、株式に関する事項、会社の運営に関する事項については、主要な株主を含んだ「株主間契約」を締結するのが合理的です。

企業側にとって、交渉にあたっての注意点とは

出資を受ける際の注意点としては、VCとどのように交渉していくかを決める必要があります。

企業サイドは、①自己の経営の自由度をどこまで確保できるか、②想定外の責任を負うことにならないか、という観点から交渉することになります。

資本という形で投資を受けるためには、ある程度の拘束はやむを得ない面があり、調達する金額や投資家のシェアを考慮して、合理的な範囲に落ち着くよう適切に交渉していく必要があります。

その際、IPOやM&Aまでに今後も追加的に資金調達を行う予定があるのであれば、その後の投資家から要求される可能性のある事項も想定しつつ、今回の投資家にどこまでの権利を認めるべきか慎重に検討する必要があります。

一方、投資家サイドは、①株主としての自己の権利を保全するため、また、②将来のExitの際に合理的な利益を確保するために、どの程度の規定が必要かという観点から交渉することになります。

特にVCは、ファンドという形で他の投資家の資金を預かっていることから、ファンドの運営者としての善管注意義務を果たしているといえる程度の適切な契約を締結する必要があります。

しかし、他方で、投資家にとって、必要以上に有利な規定を入れてしまうと、逆に起業家サイドの自由度を不当に制約し、ベンチャーとして重要な経営のスピードと柔軟性を奪ってしまい、また、投資家と起業家の円滑な関係に悪影響が生じてしまうこともあるため、この点注意が必要です。

上記のような観点から、起業家と投資家の関係において、何か「フェア」といえるのかという点に関するコンセンサスをベンチャー業界で醸成していくことはとても重要であり、お互いにフェアといえる条件で早期に折り合って資金調達を完了し、起業家がビジネスに集中できる環境が構築されることが望まれます。

komon5000