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取締役を解任したい場合にどうしたらいいか
会社経営をしていると、取締役間での意見の違いから、取締役を解任したいといった場合が想定されます。
また、取締役として、期待していたほどのパフォーマンスでなかったなどの理由により、取締役を解任したいということもあるでしょう。
では、取締役を解任したい場合に、どのような手続きを取る必要があるのでしょうか?
取締役解任の手続き
従業員の場合には、解雇といった手続きを取る必要がありますが、取締役の解任については、特に理由がなくても、株主総会で解任決議をすれば解任は可能です。
なので、株式の持ち分割合で、過半数を有していれば、その人の一存で、決めることができます。
しかし、一方的に、取締役を解任してしまうと、以下のようなリスクが生じてしまいます。
取締役解任によって生じるリスク
損害賠償請求を請求される
役員を解任する場合には、上記の通り、株主総会で解任決議をすれば解任は可能で、法律的には有効です。仮に、解任された取締役が、文句を言おうとも、法律的に、覆ることがありません。
ただし、取締役の解任について「正当な理由」がなかった場合には、解任された役員は、会社に対して解任によって生じた損害の賠償を請求できるとされています。
この「正当な理由」に、どのような理由が含まれてるかは、法律上、明確にされていません。一般的に、「正当な理由」とは、以下のようなものが挙げられています。
- 当該取締役が、法令違反故行為をした場合
- 心身の故障などにより客観的に職務執行ができなくなった場合
「取締役と経営方針が合わなくなった」というだけでは、「正当な理由」があるわけではありません。
難しいのが「期待していた能力がなかった」という場合です。
客観的にみて、取締役としての能力を著しく欠いているような場合には「正当な理由」が認められる可能性があります。しかし、それを客観的に証明するのは、困難であるケ-スが多いと考えられます。
損害賠償の金額ですが、「解任によって生じた損害」であり、残りの任期分の報酬が、1つの基準になります。
任期が長いと「残りの任期」も長期間となり、損害賠償額が大きくなるため、この観点からも、取締役の任期は1年または2年としておいたほうが無難です。
また、役員報酬をゼロにすれば、この損害賠償金額も、ゼロになりますので、当初の役員には、役員報酬をゼロにするか、低めの金額を設定しておいた方が良いことになります。
株式が譲渡されない場合がある
スタートアップやベンチャー企業の場合、取締役=株主という場合も多いです。
取締役を解任した場合には、取締役は解任することができますが、解任しても会社の株主ではあり続けます。
解任された場合には株式を譲渡するといった契約をあらかじめ締結している場合は、その契約に基づいて株式の譲渡を請求できます。しかし、そのような契約がなかった場合には、解任された者の同意がないと、株式は譲渡されません。
取締役を解任するということは、当該取締役とは犬猿の仲になっていることが多く、解任後に株式を買い戻すことは、実際上、困難です。
また、犬猿の仲である者が、株主で居続けることは、会社運営上、非常にリスキーです。よって、このような事態が生じる前に、創業間株主契約などを締結する必要があります。
解任の事実が「登記簿」に記載されてしまう
取締役の解任については、登記簿に記載されてしまいます。
解任の場合には、登記簿に「平成○年○月○日解任」と記載されることになるので、その後のIPOやM&Aの過程で、なぜこの取締役を解任したのかを調査される可能性があります。
できるだけ辞任・任期満了による退任をしてもらう
以上のように、取締役の解任は、リスクが生じます。そのため、合意に基づく辞任や、任期満了による退任としたほうがよいことになります。
まずは、自主的に辞めてもらえるように、話し合うことが必要です。
また、任期満了による退任も、考えられるところです。任期満了により、再任しないというものであれば、解任よる損害賠償義務は生じません。登記簿にも、任期満了となるため、とくに問題になりません。
注意すべきなのは、役員の任期です。
スタートアップ・ベンチャー企業の場合、役員の任期が10年となっているケースがあります。
設立段階で、毎年重任登記を行うのは手間も費用もかかるから、役員の任期は、10年としておいたほうがよいというアドバイスもあるかもしれませんが、これは間違いです。
スタートアップ・ベンチャー企業は、人の入れ替わりが激しく、それは取締役間でも同様です。
よって、役員の任期は、1年か2年程度としておいたほうがよいと考えられます。
取締役の解任は「最後の手段」
スタートアップ・ベンチャー企業では、創業者が過半数の株式を保有しているケースが多いです。
いざとなればいつでも解任できると軽く考える創業者も多いようですが、上記のように、取締役の解任には、リスクがあります。
取締役の解任には、リスクが伴いますので、最後の手段としておきましょう。