ベンチャーキャピタルの投資契約にある「表明保証条項」とは何か【2020年8月加筆】

契約書解説

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VCからの契約書にある「表明保証条項」とは

ベンチャーキャピタルからの投資契約書には、通常「表明保証条項」が記載されています。

この聞きなれない言葉である「表明保証条項」とは、一体なんなのでしょうか?

表明保証条項の意味

ベンチャーキャピタルが、企業に投資するとき、当該企業を調査します。しかし、内部情報については、十分に調査しきれません。

そこで、相手方企業に対して、これは「間違いないよね」ということを確認させ、保証させるということが行われます。

これが「表明保証条項」です。

契約書によくあるものとしては、以下のようなものがあります。

  • 会社は、投資家に提出した財務諸表が公正な会計基準で作成され、財務諸表に記載されていない隠れた債務は存在しないことを表明し保証する
  • 発行会社に対して提起されている訴訟は存在しないことを表明し保証する

ベンチャーキャピタルなどの投資家にとっては、表明保証条項は、以下のような意味があります。

契約からの解放

表明保証の内容が真実ではない場合には、投資家側は契約を解除できるようにしておくということが考えられます。

また、損害賠償請求や株式の買取請求を行って投資の撤退を図りたいと考えられます。

そこで、表明保証条項を規定し、真実に反する場合には、上記措置がとれるようにしておくことが考えられます。

表明保証違反として「契約違反=債務不履行」となり、当然に契約を解除できるわけではありません。表明保証条項は、何らかの債務を負っているわけではないからです。

そこで、投資家側としては、表明保証違反があった場合の効果について、契約において明確に定めておかないと、責任の追及が難しくなる可能性があるため、投資家にとっては、表明保証違反の場合の損害賠償請求や株式買取請求を投資契約で明記しておくことが重要です。

調査しきれない事項へのリスクヘッジ

投資契約において、表明保証条項を規定し、会社の経営陣に対して「この条項と異なる事情はないですね」と確認していくと、例えば、「実は、元従業員から未払い残業代の請求が来ているので、財務諸表に記載されていない隠れた債務に該当するかもしれません」や「商標権侵害の警告が過去に来ていたことがあります」などの回答を受け、表明保証の内容に抵触する事実の存在が判明することがよくあります

本来は、DDにおいてこれらの事項の存在を調査しておくのが基本なのですが、ベンチャー投資の場合、時間と費用の観点から十分なDDを行えないケースも多いのが実情です。

この表明保証条項の確認によって、実質的にDDをある程度補完することができます。

したがって、投資家にとっては、表明保証条項については、特に起業家に異なる事実がないか確認することが必要です。

起業家側の注意点

起業家側としては、投資契約の表明保証条項について、「漏らさず、よく確認する」ことが必要です。

起業家サイドでは「何だかいろいろ書いてあって面倒くさいな。ま、いいか」と思ってサインしてしまうケースもあるようですが、これは止めた方がよいです。

表明保証条項というのは、会社の事業がうまく行っているときは表面化しないケースがほとんどですが、会社の事業が想定どおりに進まず、VC等の投資家が、投資の撤退を考え始めて回収フェーズに入った場合は、「何か回収のネタがないかな。そうだ、投資契約の表明保証条項に違反していた事項があったはずだ」という言い訳に使われてしまうことがあります。

そのため、表明保証条項については、よく確認することが必要です。言葉が難しいようであれば、投資家側に、規定の意味を確認するなどの対応が必要です。

表明保証条項の確認後の対応

表明保証条項の確認をした後は、以下のような結果になるかと思います。

  1. 正しい
  2. 異なる事実がある(例:実は商標権を他社に保有されている)
  3. 自分ではわからない(例:「訴訟を提起されるおそれがない」か否かは、相手次第なので自分ではわからない)

1はそのままでよいですが、2と3は手当てが必要です。

2の「異なる事実がある」ケ-スは、投資家にこのような事実がある旨を告げて、投資契約の表明保証条項に例外として明記してもらう必要があります。

例えば、上記の例では、「会社はその事業活動に必要な全ての知的財産権を保有している。ただし、00の商標については商標権を取得していない。」と記載することになります。

事実として商標権を取得していない以上、このようなただし書を記載せざるを得ず、投資家としては、このようなただし書がついても投資可能かどうかを判断することになります。

なお、この場合、起業家側が「商標の問題があるので、この条項は削除してください」と修正を要請する場合がありますが、条項全体を削除してしまうと、当該商標以外の表明保証までなくなってしまうため、通常、投資家は、条項全体の削除には応じてくれません。あくまでも、ただし書で例外事項を明記するのが正しい対応方法と言えます。

「知る限り」と「知り得る限り」の違い

次に3の「自分ではわからない」ヶ-スは、「○○のおそれがない」という形の規定や、自分以外の取引先、関連会社、株主、役職員の状況に関する規定などでよく生じることがあります。

例えば、第三者から著作権侵害等を主張されるおそれがないかといわれると、言いがかりもあるかもしれないから、保証は難しいというケ-スや、取引先が反社会的勢力ではないことを保証しろといわれても、自分としては反社会的勢力ではないと思っているから付き合っているが、調査会社を使って調べたわけではないので、「保証」といわれると厳しいなどというケ-スです。

このような場合は「発行会社の知る限り」などの文言を追加して、自ら把握している範囲では正しいことを保証するという形に修正するのが一般的です。

例えば、「発行会社の知る限り、00のおそれがない」などとします。

このような形にすれば、自分が知らなかったことについては免責されることになります。表明保証条項の中には、このような「知る限り」を挿入するべき事項も数多くあるので慎重にチェックしましょう。

これに関して、投資家側から「知り得る限り」に修正するよう求められるケースもあります。

これは、会社側として「知り得た=合理的に調査すれば分かった」事項については保証してくださいというものです。

「知る限り」では、知らなければ免責されるのに対して、「知り得る限り」では、知らなかったとしても、知らなかったことについて調査不足などの落ち度があった場合には免責されないということになります。

この点、どの程度の調査をするべきかは、対象事項の重要性や調査に要する一般的な費用や時間などを考慮して、発行会社の当時の具体的な状況に即してケースバイケースで判断されるので、曖昧さが残るものとなります。

しかし、妥協点としては、「知り得る限り」で妥結しなければならないケースも多いのが実情です。

表明保証条項は、要チェック

上記のように、表明保証条項は、起業家側も、投資家側も非常に重要なものとなります。

ついつい、お金の規定にばかり、目が行ってしまいますが、表明保証条項をないがしろにすると、後から、契約自体が解除されたり、条項によっては、損害賠償などのリスクを負うことになります。

表明保証条項については、十分にチェックするようにしましょう。

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