M&Aのときの株式譲渡契約の6つのポイント【弁護士が解説】

M&Aの法律

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M&A契約における株式譲渡契約とは

スタートアップやベンチャー企業がM&Aによるイグジットをする場合、買い手側企業に対して経営株主らが有する株式を売却すること(株式譲渡すること)が多いです。

この場合には、株式譲渡契約書を締結することになります。

この株式譲渡契約について、いかなる内容を定めるべきであるか、ポイントとなる事項を解説していきます。

株式譲渡の対象となる株式の確定

まず、譲渡の対象となる株式の内容を確定します。

  • 発行会社の特定
  • 株式の種類
  • 株式の数を特定し、実際の発行済株式数との齟齬がないようにする

基本的なことは定めておく必要があります。

株式の価額とその支払方法

また、株式を譲り受ける対価としての価格を定めます。

そして、支払に関する規定として支払期日と支払方法を明確化します。

株式価額は、一定金額を一括で支払う方法が多いですが、一定額についてはクロージング後に調整するような定め方をする場合もあります。

クロージング日までの前提条件

バイアウト実行までのプロセスとして、契約締結後一定の期間を空け、譲渡実行する日をクロージング日として定める場合があります。

クロージング日までに、売り手側の手続き履行、そしてデューデリジェンスで露見されたリスク事項を解消していることを株式譲渡実行の前提条件として定めることとなります。

買い手側としてはリスク事項が行われない限り、株式譲渡の対価の支払をしないでOKということになります。

  • クロージングの前提条件として定める事項として、表明保証事項や各遵守義務(契約締結後クロージング日までに買い手側の事前承諾なく重大な経営の意思決定を行わないことなどを定めることが多い)に違反しないこと
  • 株式譲渡の前提として官公庁による許認可が必要な場合、又は独占禁止法の届出が必要な場合には、これらの手続きが行われたこと
  • 買収先企業による継続した事業運営のために前提となる契約が延長されること
  • 重要な契約が解除とならないよう合理的な交渉を行うこと

株式売却の前提となっていた事項に重大な変化がないことを担保ような条項を規定をしておく必要があります。

表明保証

売り手側、買い手側共に、相手方に表明保証してもらいたい事項を定めます。例えば以下の事項を定めることが一般的です。

  • 契約の締結及び株式の発行を行う権能を有していること
  • 契約の締結及び株式の発行に際する一切の手続きを適法に行って いること
  • 株式に関する事実が正確なこと(発行可能株式数、発行済株式数 など)
  • 株式に何らの担保が付されていないこと・会社の根本となる事実 が正確なこと(定款、株主名簿、登記簿情報など)
  • 会社の財務諸表が正確なこと(BS、PLなど)
  • 会社に現在裁判手続きがなされていないこと・反社会的勢力と何らの関係もないことなど

なお、当該表明保証条項の交渉実務として売り手側は、表明保証の範囲が余りに広範囲にわたり、知らない事項まで保証することが求められることも少なくありません。

表明保証に違反する場合、契約解除又は損害賠償請求される可能性があり、安易に保証できない事由まで定めてはいけません

一般的な契約交渉としては、経営株主の「知る限りにおいて」や「知り得る限りにおいて」といった文言を加えることにより、知らない事項について表明保証の対象外とする交渉方法を採用することとなります。

競業禁止と専念義務

株式譲渡契約においては、経営株主の競業禁止条項を定めることがあります。

せっかく高額で対象会社を買い受けた場合においても、当該会社の経営者がすぐに同種の企業を設立し、会社のノウハウを活かして競合する事業を行われてしまったら、買い受けた意義が薄れます。

そもそも企業成長の秘訣は優秀な経営者が迅速かつ正確な意思決定を行っていることにあり、経営者が退任することは企業価値に直結します。

そのため、株式譲渡を行った後も、一定期間は経営者として残り続けて、経営に専念し続ける義務を課すことがあります。

どのような期間が合理的かは、業種や企業ごとの個別具体的な事由によるため、一般的な期間はないものの、1年から3年の定めが一般的です。

そして、競業禁止規定は、上記専念義務が明けたと同時に解禁される場合や、専念義務が明け、退任後一定期間競合する事業を行ってはならないとする場合があります。

アーンアウト条項

アーンアウト条項(eam-out)は、クロージング後の一定期間において、財務指標(売上高、純利益、EBITDA等)や一定のマイルストーン(新商品・新サービスの開発等)の達成を条件として、買収対価に追加して対価を支払うという条項です。つまり、一定の条件の下で、買収対価を後払いするという条項です。

スタートアップ企業のバイアウトにおいては、そのバリュエーション評価が困難であり、バリュエーションについてスタートアップ企業側と買収者側とて合意に至ることが難しく、一定の調整が必要です。

このためにアーンアウト条項により、買収対価を調整することが可能となるのです。

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