スタートアップ・ベンチャー企業をM&Aによって買収しようとする買主の目的はさまざまです。
ベンチャー企業の事業そのものや、その事業に関連する知的財産権・ノウハウを獲得したいという目的でベンチャー企業を買収する買主もいますし、事業にはそこまで関心がないが、その事業をリードしている経営者・経営陣・重要な従業員を獲得したいという目的で買収する買主もいます。
目次
M&Aのキーマン条項・競業避止条項とは
特に人材獲得目的でのベンチャー企業のM&Aの場合には、ベンチャー企業の買収後に、その会社の事業に関する経営者・経営陣・重要な従業員が退職してしまったり、その会社の事業に集中せずに競業する事業を始めてしまったりしてしまうと、買主はベンチャー企業を買収した目的を達成することができなくなってしまいます。
そこで、買主は、M&A契約において、以下を義務づけることがあります。
- 売却企業の経営者・経営陣・重要な従業員等がM&A後も一定期間は対象会社において継続して業務に従事する
- 対象会社在籍中・退職後にかかわらず、それらの者が一定期間はその対象会社の事業と競業する事業を行ってはならない
上記(1)のような内容を定めた条項がいわゆるキーマン条項であり、上記②のような内容を定めた条項が競業避止条項と呼ばれるものです。
具体的な条項例は以下のようなものです。
キーマン条項
売主(経営株主)は、自らならびに対象会社の経営陣および対象会社の従業員○○氏をして、クロージング後、クロージング日から起算して○年間、対象会社の業務に従事する/させるものとする。
競業避止条項
売主(経営株主)、対象会社の経営陣および従業員は、対象会社に在籍中および対象会社を退職後○年間、対象会社の事業と競業する業務に従事してはならないものとする。
キーマン条項・競業避止条項への対応方針
M&A契約の売主(経営株主等)は、対象会社をM&Aによって売却して得た資金を元手に新たな事業を始めようとしていることが多いと考えられるが、とりわけ同種または類似の事業を始める場合に、キーマン条項や競業避止条項をそのまま受け入れてしまうとその新たな事業を始めるのに支障が出てしまいます。
そこで、M&A契約の売主としては、そもそもキーマン条項・競業避止条項を受け入れることが今後の新たな事業展開との関係で問題ないかどうか、また実際にキーマン条項・競業避止条項を受け入れる場合でも売主にとって不合理な内容となっていないかどうかという点について、考慮する必要があります。
なお、買主から、M&A契約においてキーマン条項や競業避止条項を明確に規定しない代わりに、退職後も対象会社たるベンチャー企業の顧問となるための顧問契約やコンサルティング契約を締結するように求められる場合があります。
この場合、別途締結する顧問契約やコンサルティング契約において、同様の競業避止義務が規定されることもあるため、注意が必要です。