M&Aの流れと各段階で注意すべき8つのチェックポイント

M&Aの法律

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M&Aするときの流れとは

スタートアップやベンチャー企業のゴールとして、M&Aがあります。しかし、M&Aといっても、どのような流れで進んでいくのか、理解が難しい場面があります。

そこで、M&Aをする場合の交渉の流れを解説していきます。

秘密保持契約の締結

まず、M&Aの交渉過程ではさまざまな情報が開示されるため、開示した情報を外部に漏らさないという内容のNDA(秘密保持契約書)が交渉を始める段階で結ばれます

その後、M&Aの契約を結ぶ際の条件の大枠(買取価格や基本的な契約条項等)について議論がなされ、合意に至った大枠について基本合意書(「LOI」といいます)が結ばれます。

なお、LOIには法的拘束力を持たせる場合とそうでない場合があります。

LOIに法的拘束力を持たせない場合があるのは、買収側が上場会社であるときで、金融商品取引所の規則上の適時開示が必要になってしまう可能性があるため、法的拘束力を持たせないLOIを結ぶ必要があるという理由によることが多いです。

また、独占交渉権や秘密保持など一定事項についてのみ法的拘束力を持たせる場合もあります。

法的拘束力がある形で独占交渉権が規定される場合は、LOIを締結することにより、一定期間は他の候補先との交渉ができなくなってしまうため、その受け入れの可否については慎重に検討する必要があります。

デューデリジェンス

この基本合意書の締結と並行してまたは締結後に、デューデリジェンス(DD)を行います。

DDとは、M&Aの実施にあたって、関係当事者(主に買収側)がM&A実施の意思決定に影響を及ぼすような問題点がないかを確認するために調査することを意味します。

DDの結果、相手方に関する問題が発見された場合には、DD後に(またはDDと並行して)行われるM&Aの契約交渉の際に、当該問題の解消をクロージングの前提条件とされたり、当該問題の解消をすることを契約上の誓約事項として定められたりします。また、対価を減額される場合もあります。

例えば、DDの過程で、会社が使用している技術に関する特許権が第三者に帰属していることが発見された場合は、M&Aの契約を締結する前までに当該特許権の譲渡を受け、M&Aの契約において、特許権の譲渡を受けていることを表明保証させられる可能性が高いです。

M&Aの契約締結までに特許権の譲渡が受けられない場合には、M&Aの契約にて、特許権の譲渡を受けることがクロージングの前提条件とされ、クロージングの予定日までに間に合わない場合は、誓約事項として事後的に特許権の譲渡を受けて登録の名義変更をすることが明記されることもあります。

デューデリで検討される事項

M&Aの際に行われるDDでは、法務DDの他に会計、知財、ビジネス、環境などに関するDDがありますが、いずれのDDにおいてもさまざまな書類や情報の開示が要求されます。

法務の観点からは、

  • 対象会社が、必要な法律に則って、事業活動を行っているか
  • 法令上の規制を含め、法律に従った手続をきちんと取っているか
  • 対象会社の企業価値の評価に影響を与えるような法的問題点はないか
  • M&A後の事業計画に影響を与えるような法的問題点はないか

法務DDでよく問題となるポイントは以下の8つです。

1:会社の基本情報

コーポレート関係の書類としては、登記簿(会社の履歴事項全部証明書)や定款に始まり、株主総会や取締役会の議事録、また新株発行等の会社法上の行為に必要な手続が適法に行われていることを示す書類等がチェックされます。

2:関連当事者取引または株主との取引

関連当事者や株主との間で締結されている契約書(投資契約や株主間契約)がチェックされます。

関連当事者や株主との取引は、いわば身内での取引なので、通常と異なる条項や特殊な約束が取り決められる可能性があります。

このような条項や約束がM&Aの障害になる可能性もあるため、取引の内容がチェックされます。特にM&Aでは、支配するものが変更します。

対象会社の親会社との間で有利な条件で取引をしていたような場合で、その取引の存続が対象会社にとって重要な場合は、M&A後も当該(元)親会社との間で同様の条件で取引が存続できることを約束してもらう等の対応を検討することがあります。

いっぽうで、対象会社の親会社との取引はM&Aの際に解消を求めたいと買収側か考えることもあり、M&Aという支配関係の変更により、関連当事者取引または株主との取引を解消するのか、存続させるのかの判断は買収側にとって重要なポイントです。

3:事業間の契約関係

ビジネス関係としては、そもそも対象会社のビジネスが許認可などの業規制上適法なビジネスなのか、という点がチェックされますが、その他には、対象会社の事業のために締結している重要な契約に不備がないか(過大な責任を負っていないか、競業禁止などの事業の制約がないか、容易に解除される建付けとなっていないか等)がチェックされます。

特に、M&AのDDにおいては、ChangeofControl条項が入っていないかのチェックが重要です。

ChangeofControl条項とは、例えば契約当事者の過半数の株主に異動がある場合に、契約の相手方が契約を解除できるとする条項のことで、ChangeofControl条項があると、M&Aの結果、当該契約が解除されるリスクが生じるため、事前に契約の相手方からM&Aについて同意を取っておく等の手当てが必要になります。

4:資産

資産関係としては、主に対象会社の知的財産権(商標権や特許権、著作権等)が適法に確保されているかという点や対象会社が保有している動産および不動産の権利が確保されているかという点がチェックされます。

チェックされる主な書類は、商標の登録証や不動産の登記簿になります。担保の有無も併せてチェックされます。

また、資産の中に重要なソフトウェアがある場合は、当該ソフトウェアの著作権が会社に帰属していることが重要であるため、その開発経緯(外注の場合は外注先との開発契約の内容等)がチェックされることになります。

5:会計

ファイナンス関係としては、対象会社の借入金の状況や借入れに関する契約書がチェックされることになります。また、社債を発行している場合には、①コーポレートと同様、会社法上の手続が履行されているのか、という点もチェックされます。その他、保証の有無や、ある場合はその内容もチェックされます。

6:労務

労務関係では、就業規則(賃金規程等の規程類も含む)や雇用契約が適法な内容かという点、労働関係法規の遵守状況(特に未払い割増賃金がないかどうかという点)、労使関係のトラブルの有無等がチェックされます。

7:許認可等

対象会社のビジネスが許認可を要するものである場合、必要な許認可を取得しているかという点や、M&Aを実行する場合に許認可に関する特別な手続をとる必要がないかという点がチェックされます。

また、M&A後に許認可が取り消されてしまわないかという観点から、許認可に関連して監督官庁から指導や勧告を受けていないかという点もチェックされます。

8:紛争/その他

紛争関係では、係争中の紛争がないかという点や将来係争となる可能性がないかという点が検討され、関係する警告書や通知書等の有無およびその内容、さらに訴訟がある場合にはその訴訟資料がチェックされます。

その他の事項としては、顧問等のアドバイザーとの契約の有無およびその内容や、寄附金等という形で不透明な金銭の流出がないかという点がチェックされます。

デューデリは、様々な観点からのチェックが求められる

以上のように、DDではさまざまな観点からチェックを受けるため、対象会社となるベンチャーには、さまざまな書類の開示が求められることが理解できると思います。

さまざまな書類の開示が求められるということは、対象会社では、DDが始まる段階において、関係書類を集めてリクエストに応じて開示しなければならないことを意味します。どこに書類があるかわからないような状態では、DDの際に書類集めのために膨大な時間を費やすことになり、通常業務と並行して対象会社の負担は相当なものになることが予想されます。

また、適切な開示ができないと、その事実をもって、買収側に会社の管理体制に不安があるとみられるおそれもあります。

そのため、将来M&AでのExitを考えるベンチャーとしては、普段から法律上作成が必要とされている書類は作成し、いざ提出が求められた場合にはすぐにまとめて提出できる状態を作っておくことが、重要です。

正式契約の締結

DDが終了したあとは、買収側では、その結果を踏まえて正式契約にどのような条件を盛り込むかを検討します。

例えば、対象会社が締結している親会社との契約が、ビジネス上重要であることがDDで判明した場合は、その契約が容易に解約されないよう修正することを、クロージングの条件とする旨定めるなどの対応をとります。

また、未払残業代が存在する可能性があるが、クロージングまでに解決することが難しい場合は、もしクロージング後一定期間内に対象会社に未払残業代が請求された場合は、売却側か補償しなければならないという形で規定することもあります。

このように、買収側ではDDで判明したリスクをできるだけヘッジするよう、クロージングの条件や表明保証の内容を充実する形で正式契約を締結しようとします。

他方で、売却側は、対応可能か分からないことをクロージングの条件とすることは避けようとし、かつ、クロージング後の義務はできるだけ限定的となるよう交渉することが通常です。

このように、正式契約までの交渉は、かなり紆余曲折であることが多いです。

LOIで定めた独占交渉期間内に正式契約が締結できるよう、スケジュール的にもタイトな交渉となることも多いので、気を付けましょう。

ク囗-ジングの段階でのポイント

正式契約を締結したあと、クロージングまでの間においては、売却側ではクロージングの条件を満たすべく、行動をすることになります。

例えば、クロージングの条件に、取引先との契約の修正が規定されている場合は、当該取引先との契約交渉等を行い、必要な書面を取得するなどの対応をします。

そして、クロージング日においては、それらのクロージングの条件を満たすことを証する書面を買収側に提示し、クロージングの条件を満たしていることを両者確認のうえで、代金支払などのクロージングの実行手続を行うことが一般的です。

万一、クロージングの条件を満たしていなかった場合でも、買収側が一定の条件のもとでそれをよしとする場合は、その条件についての覚書などを別途両者で締結したうえで、クロージングを実行することもあります。

たとえば、重要な取引先との契約書の修正をクロージングの条件としていたものの、その取引先の社内手続が遅れているためにクロージングまでに間に合わなかったような場合は、クロージング後、一定期間以内にその修正がなされなければ、代金の一部を返金することを約束させたうえで、クロージング自体は実行することなどもあります。

以上のように、M&Aは会社の命運に関わる重要な取引であり、LOIの締結から、DD、正式契約の締結、クロージングのいずれのプロセスにおいても気を抜かずに慎重に判断して交渉する必要があります。

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