スタートアップ・ベンチャー企業の起業時の資本政策とは

一問一答

スタートアップ企業を経営していると、必ずぶつかるのが、資金繰りの問題です。
資産がないスタートアップ企業には、銀行などはなかなかお金を貸してくれません。
また、融資を受けられたとしても、返済をしなければならないので、返済できるかどうか不安を持つ人も少なくないでしょう。

そこで、投資家に、出資をしてもらうことが考えられますが、誰にいくら出してもらうかには、注意が必要です。

どのような株主に、何%の株式を割り当てるのかを予め決めておくこと、これを「資本政策」と言います。

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スタートアップ企業は、初期のときの「資本政策」が大事

スタートアップ企業の経営者は、法人を立ち上げたころはお金がないことが多く、そのときに出資してくれる人がいたら、神様のように思うかもしれません。

しかし、初期のころに資本政策を間違えてしまうと、後から取り返しのつかないことになってしまいます。なぜなら、資本政策の間違いは、初期の間違いほど、後になってから修正がきかないからです。

「会社は、株主のもの」といいますが、一度株主として出資してもらうと、後から「やっぱり株を返してほしい」ということは非常に困難です。
株主は、一度手に入れた株式を売らなくてもいいのです。

設立当初に筋のよくない人から出資してもらったために、ベンチャーキャピタルからの支援を断られてしまったという例は非常に多く聞きます。また、スタートアップ企業の場合、成功すれば、企業価値が設立当初の100倍、1000倍になることも珍しくありません。

そうなった場合には、出資してもらった株式を買い戻すときに巨額の資金が必要になります。例えば、100万円の資金で創業した直後なら、10%の持ち分を持つ株式を譲ってもらう場合には10万円で済むわけですが、企業価値が10億円になった後に、10%の持ち分を譲渡してもらうのには1億円の資金が必要になるのです。

このように、資本政策は、一度失敗すると取り返しがつかないことになるのです。

創業者持ち株比率はどのくらいが妥当か?

法律相談の際に、「知り合いやベンチャーキャピタルから出資したもらうときに、株式の何%を渡すのが妥当ですか?」という質問をよく受けます。このとき、必要となる資金調達の金額や将来の上場の可能性など、さまざまな事情を考慮する必要があります。よって、一概には言えません。しかし、法律上、創業者の持ち株比率で、気をつけるべき点があります。以下、具体的に見ていきたいと思います。

(1)投資家が50%超の株式を持つ場合

1人の投資家が、5割を超える(過半数)株式を持つと、株主総会の普通決議(会社法第309条第1項)で、自分の意のままの議決ができるようになります。
例えば、取締役や監査役など、会社の役員選任、解任決議は、株主総会の普通決議事項ですので、誰を役員にするのか、誰を辞めさせるかは、その投資家の独断で行えてしまうのです。
よって、創業者として、取締役として、自分がいかに頑張って会社のために尽くしたとしても、過半数の株式を持つ投資家が「辞めてください」と言えば、辞めざるを得ないのです。最低でも、自らが51%以上の株式を持っていないと、会社が自分の思いどおりにならなくなってしまいます。

よって、自分の持ち株比率が50%を割るような事態は、極力避けるべきです。

(2)投資家が3分の1超の株式を持つ場合

投資家に3分の1以上の株式を持たれてしまうと、株主総会の特別決議事項(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要)が、自らの判断でできなくなってしまいます。
会社法上、株主総会の特別決議事項とは、次のような事項があります。

・定款の変更

・新株発行事項の決定

・M&Aにまつわる事項(事業譲渡、合併、会社分割等)

・資本金の減少

このように特別決議事項には、会社としての重要事項が挙げられます。例えば、定款の記載事項である会社名を変えたり、本店所在地を変えたり、株式を発行して資金調達する際やM&Aをしたいと思っていても、いちいち投資家の賛成が必要になるのです。

よって、自己の持分比率が、3分の2を割る場合には、相当慎重にする必要があります。

(3)投資家が3分の2以上の株式を持つ場合

この場合には、投資家が、会社の決定事項のほとんどすべてのことを決定できることになります。逆に言えば、創業者が3分の1超を持っていれば、取締役などの役員を解任されても、株主として、株主総会の特別決議事項である重要事項については、反対すれば、その事項は決定されないことになります。

しかし、投資家が3分の2超の株式を持ってしまうと、会社はもう投資家のものと言ってもよく、創業者の意思は反映されないことになります。

繰り返しになりますが、スタートアップ、ベンチャー企業は、創業時に資金繰りに窮することが多く、お金を出してくれる人は、天使に思えてくるでしょう(実際に、スタートアップ、ベンチャー事業に投資してくれる人のことを「エンジェル」と呼んだりします)。しかし、持ち株比率を十分考えずに投資してもらっていると、後から大変なことになります。

ぜひ、自己の持ち株比率を意識するようにしましょう。

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