M&Aの契約の「キーマンクローズ」と「競業禁止条項」の注意点

M&Aの法律

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M&Aの契約にみられる「キーマンクローズ」とは何か

M&Aについて、契約の締結段階にきた場合に、よくあるのが「キーマンクローズ」条項です。

キーマンクローズとは、M&Aの対象会社の代表取締役等の経営者などが、M&A後一定期間は対象会社での職務を継続し、辞めた後も一定期間は対象会社と競合する事業を行ってはならない旨を定めた条項のことを意味します。

ベンチャーのM&Aの場合、経営者が、対象会社において重要な役割を果たしており、当該経営者が対象会社の事業に関与しなくなってしまうと対象会社自体の価値が下がると買収側か判断するケースが多く見られます。

つまり、買収側としては、対象会社の企業価値を維持し、これをさらに高めるべく、M&A後も経営者に一定期間は対象会社の事業に関与してもらい、事業を継続してもらいたいと考えることも多く、その場合は、上記のようなキーマンクローズをM&A時の契約に盛り込むことになります。

また、買主は、対象会社の事業を守るという観点から、対象会社のノウハウを持っている経営者に、対象会社と同じようなビジネスに関与してもらっては困ると考えます。

そのため、対象会社に在職中および退職後一定期間は、経営者は対象会社の事業と同じまたは類似する事業を行ってはならない競業禁止条項を併せて要求するケースが一般的です。

キーマンク囗-ズを受け入れる場合に注意点

キーマンクローズは、売却側の経営者にとっては大きな制約となりますので、売却側としては、キーマンクローズを受け入れるかどうかは慎重に判断する必要があります。

ただ、経営者が対象会社からいなくなると対象会社の価値が下がってしまうような場合は、キーマンクローズをM&Aの必須の前提条件として提示される場合も多いので、全くこれを受け入れないのも難しいと考えます。

そこで、どの範囲であればキーマンクローズを受け入れられるかを検討する必要が生じます。

M&A時には数年の拘束であれば問題ないと考えていたものの、拘束期間中に他のビジネスを始めたくなってしまい、途中で対象会社を退職したくなるケースも少なくないため、M&A後も見すえて、どのくらいの期間であれば拘束を受け入れることができるかを判断する必要があります。

また、キーマンクローズの交渉においては、拘束される期間中の経営者の報酬条件、目標達成の際のインセンティブも問題になります。

拘束されるからには、その期間中の報酬条件やインセンティブを適切に保証してもらいたいのであれば、契約書にその旨を盛り込んでおく必要があります。

目まぐるしく変化のある業界では、実際にM&A後に事業がどのように変動するのかは、予想が難しく、目標を定めても変更を余議なくされてしまうので記載は難しいところです。

しかし、何も規定しないと、対象会社が買収側のコントロール下にある以上は、取締役の報酬なども自由に設定されてしまうリスクもあります。

さらに、キーマンクローズの規定があるからといって、買収側から対象会社の経営者たる地位を当然に保証されるわけではなく、取締役の解任権の行使などにより対象会社の経営者たる地位を奪われるリスクもあるため、M&A後も対象会社の経営者として業務を遂行していきたいのであれば、対象会社の経営者たる地位を奪われないことを明確に規定しておく必要があります。

競業禁止条項について

次に、競業禁止条項についても、同様のことが言えます。

拘束期間が満了して対象会社を退職できたとしても、競業禁止条項が残っている場合には、対象会社と類似のビジネスを始められなくなってしまいます。

一般的には、従前の経験を生かして新しいビジネスを始める方が多いと考えますので、M&A後に新規ビジネスを始める場合には、競業禁止の内容も慎重に検討する必要があります。

対象会社を退職後に関与する可能性のあるビジネスがある場合には、M&Aの契約交渉において競業禁止条項の禁止対象ビジネスから、当該ビジネスを明確に除いておく必要がありますので、この点には注意が必要です。

もっとも、この点は買収側も気にするところですので、交渉が難航するケースも多いです。

拘束期間中は競業禁止条項を受けてもやむを得ないと考える場合は「M&Aより○年間」とM&Aの時点を起点として競業禁止の期間を定めることとし、「在職期間中および退職後○年間」などという形で退職後も拘束を受けることはないように交渉することが考えられます。

また、M&Aで売却益を得た経営者は、その利益を他のビジネスに投資したり、アドバイザーとして他の起業家に、アドバイスしたりすることも多いため、それが競業禁止の内容に抵触しないよう競業禁止条項を適切な形で定めておくことも重要です。

M&Aの交渉においては、その後に一緒に働くことになる者との交渉になる場合が多いため、買収側に「その点は信頼ベースで行きましょう」と言われるとなかなか交渉がしにくい面もあるかもしれません。

しかし、売却側の経営者にとっては極めて重要な内容であるため、弁護士などのアドバイザーに入ってもらうなどして、きちんと交渉することが重要です。

買収側の担当者と信頼関係ができている場合であっても、その担当者が会社を辞めてしまうリスクや、人事異動が生じてしまうリスクは常にあるということに留意しておきましょう。

そのうえで、万一違反の有無について争いが生じてしまった場合に備えて損害賠償の上限などを定めて金額に限度を設けておくことが重要です。

M&A後もこのキーマンクローズ等の条項は、違反があったか否かで紛争になりやすいところですので、売却側の経営者は、新しいことをしようとする際には、M&Aの契約の締結後においても契約内容を見直したり、弁護士に相談するなどしたほうが安全です。

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