スタートアップ・ベンチャー設立時の資本政策で注意すべき法律ポイントとは【解説】

スタートアップ・ベンチャー企業の設立時に必要な法律

komon5000

会社設立時の資本政策とは

資本政策とは、企業の資金調達等に伴う資本構成(株主構成)の計画の事です。

①事業計画と資金計画に基づいて、②どのようなタイミングで、③いくらの資金を株式という形で調達するかを計画します。まずは事業計画と資金計画を立案して、それを基に資本政策を考える必要があります。

企業の資金調達には、大きく分けて、以下の2つの方法があります。

  1. 借入等の間接金融
  2. 株式等の直接金融

①借入については、万一自分の会社に相応しくないと考える債権者からお金を借りた場合は、借りたお金を返すことで関係を解消することができます。

しかし、②株式については、投資金額を返せば株式が消滅するというものではなく、株主との関係は、会社が存続する限り半永久的に継続する可能性があります。したがって、誰に株式を割り当てるかについては初めに相当慎重に検討する必要があります。

資本構成は、失敗した場合にやり直すことが極めて困難であるため、最初から慎重に検討することが重要です。

また、実際に資本政策を立案する際には、将来のIPOまでの間の資金調達の可能性を含めて、IPO時点から逆算して計画を立てることがポイントになります。

資本政策のやってしまいがちな失敗例

起業家が遭遇する資本政策上の失敗例としては、以下のようなケースがあります。

①ケース1:自らを高く評価してくれている投資家から投資を受けた。しかし、その投資家(エンジェル)の持株比率が高すぎ、経営陣の持株比率が低すぎるとして、ベンチャーキャピタル(以下「VC」といいます)からの資金調達が難しくなってしまった。

②ケース2:創業当時のアドバイザー等に現金の代わりにストックオプションを大量に与えた。しかし、潜在株式の割合が高すぎて将来のIPOの支障になるだけでなく、将来の役職員に与えるためのストックオプションの枠が全くない状態になってしまった。

③ケース3:VCから数億円の資金調達に成功するも、経営陣の持株比率が低くなりすぎて、自分たちがいつでも解任され得る状態となってしまった。

このような失敗に直面した際、状況を良くすることは極めて困難なケースが多く、会社の成長にとって重大なマイナス要因となってしまうことがあります。そのため、会社設立時の計画時から将来の資本政策について検討しておくことはとても大事です。

株式による資金調達は、どういう意味があるのか

資本政策を考えるにあたって、まずは、起業家にとっての株式の基本的な意味を理解する必要があります。投資家が株式という形で、会社に投資をすることで得られる価値は、大まかに分けると、以下の3つがあります。

  1. 会社において利益が生じた場合に配当という形で利益分配を得られる権利
  2. 株式を売却することで得られる利益(いわゆるキャピタルゲイン)
  3. 会社の重要事項を決定する株主総会で行使することができる議決権(いわゆる支配権)

ベンチャーは、通常、配当よりも将来の成長のための内部留保を優先させることが多いため、上記のうち②と③が投資家にとって重要となります。

投資家から株式という形で投資を受け入れることは、資金を入れてもらう代わりに、上記の価値を分け与えることを意味します。

この点は借入と大きく違うポイントで、上記の3つの価値を有する株式を、どの程度分け与えてしまってよいかということを慎重に検討する必要があります。

そのため、投資希望者が現れたからといって、喜んでむやみに株式をばらまくことは②と③の価値をばらまくこととなるため厳禁です。また、資金が苦しいときに、アドバイスをくれたりシステム開発などを手伝ってくれた際に、株式を与えるということも慎重に是非を検討する必要があります。

投資家に、どのくらいの持ち株を渡すべきか

上記③の「支配権」という観点から、投資家に多くの持分を渡してしまうと、会社が乗っ取られる可能性があります。

議決権比率3分の2以上

株主総会の特別決議をコントロールすることができるため、基本的には会社のことについて何でも決められる支配権を有することになります。

議決権比率50%超

通常の株主総会決議を決めることが出来ます。

役員選任や計算書類の承認などの株主総会の普通決議事項は自ら決めることがでるため、 自らの取締役としての地位も原則として守ることができます

ただし、定款変更、新株発行、新株予約権の発行などの重要事項は上記の特別決議が必要なので、3分の2以上を保有していないと自ら決定することはできません。

議決権比率3分の1超

重要事項の拒否権があります。上記の株主総会の特別決議をブロックできるという意味で、重要事項についての拒否権を持つことが可能です。

議決権比率3分の1以下

マイノリティーの一般株主です。

上記を踏まえて、起業家としては、自らの議決権比率が3分の2以上の確保はしたいところです。少なくとも、50%超がないと、自らの取締役の地位が危ぶまれてしまいます。

ただし、大規模な資金調達を行う場合は、この点もある程度妥協せざるを得ない場合ももちろんありますので、そのときの判断が必要になります。

マイノリティー株主について注意するべきこと

議決権比率3分の1以下はマイノリティーの一般株主と呼ばれていますが、このような株主であれば問題はないということは一概にいうことが出来ません。なぜなら下記4点のような懸念があるからです。

  • 株主である以上、取締役の責任追及は可能であり、少数株主であっても、会社の経営陣と敵対的な関係になってしまうと株主代表訴訟等のリスクが生じる可能性があります
  • 起業家にとって、最近はM&Aに応じることも選択肢として重要性が高まりつつありますが、少数株主が、株式を売却してくれない、合併等に関して反対株主の買取請求を行うなど、M&Aに応じてくれないリスクがあります
  • マイノリティー株主でも、議決権を有して株主総会に参加する権利があることから、株主総会で厳しい質問を連発したり、株主総会の招集期間を短縮して開催することについて同意してくれないなど、円滑な株主総会の運営に支障が生じる可能性があります
  • 退職した社員等すでに会社に全く貢献していない株主がいて、その株主が会社で頑張っている役職員よりも多くの株式を保有している場合には、将来のIPO等のキャピタルゲインに関して現在の役職員にとって不公平感が生じ、それがモチベーションに悪影響を与える可能性があります

したがって、会社にとって、支配権という観点からは問題がなさそうな議決権比率3分の1以下のマイノリティーの一般株主であっても、そのような株主を生じさせてよいかは慎重に検討することが重要です。

資金調達契約を立てることの重要性

スタートアップ・ベンチャー企業にとって資本政策は重要ですが、それを考える前に、まず、自分の会社にとって、どのような理由でどんな資金が必要になるか落ち着いて考える必要があります。

起業家が陥る勘違いとしてよくあるのは「ビジネスモデルができた!→会社を設立した!→まずは資金調達だ!→資本政策を立てよう!」と極めて単純に考えてしまうケ-スです。

①事業計画と資金調達の目的

自分で「これは革新的だ!」と思うビジネスモデルを考えついたら、単に、斬新であるだけでなく、事業として成り立つか、将来事業を継続して発展させていけるだけの十分な利益を得られるかを検証して、「事業計画」を作成する必要があります。

事業計画が素晴らしく、事業開始当初からいきなり黒字でどんどん利益を生むのであれば、他者から株式という形で資金を調達する必要がありません。自分の手金で自己100%の会社を経営していけばよいので、資本政策という概念はそもそも不要です。

しかし、通常は、売上が上がるまでの当初の開発資金や、競合サービスを振り切るための「スピード」を確保するために必要な営業体制の構築などのために、資金を調達する必要が生じます。

②資金計画を行う

そこで、事業の継続および発展に必要な事業計画を達成するために必要な「資金計画」を立てます。今後の事業の成長の過程において、どのタイミングでいくらの資金が必要か検討してから資金調達を行うということです。資金計画では、どの程度が自己資金および自社の収益でまかなえるか、どの程度を外部から調達する必要があるかを分析します。

③資金調達の方法を決める

外部からの資金調達が必要な部分は、必要な資金を「借入」と「株式」いずれの形で調達するのかを、慎重に検討します。借入は、返済する必要がありますが、返済すれば関係は解消します。株式は、返済不要ですが、その代わり株主との関係は継続していきます。

④資本政策

上記の「株式」の部分について、将来の必要調達金額を踏まえて「資本政策」を検討していきます。

つまり、資本政策とは、①事業計画および資金計画に基づき、②どのようなタイミングで、③いくらの資金を、株式という形で調達するかに関する計画ということになります。

まずは、きちんと事業計画および資金計画を立案して、それをベースにして資本政策を考えることが重要です。

資本政策は、出口から逆算して考える

資本政策を考えるにあたって、上記のような基本的なポイントを抑えつつ、将来の資金調達を想定して計画を立てる必要があります。

一般的には、株式という形で資金調達を行う場合、投資家は将来のIPOやM&Aにおいてキャピタルゲインを得ることを期待している場合が多いです。

一方、起業家も、とりあえずは、将来のIPO等までの資金調達の計画を想定することが一般的です。

将来のIPOまでに、複数回の資金調達を予定している場合は、最初の資金調達で自己の持株比率をギリギリ50%超にキープできたとしても、それでは、次回以降の資金調達で、50%を下回ってしまう可能性があります。

例えば、「1年間の事業を行うにあたり5,000万円必要だな。そのために、 30%程度の株式なら投資家に分けよう!」といった安易な考えは禁物です。

資本政策については、すでに実行した資金調達を巻き戻してやり直すことは基本的に不可能であり、最初の失敗がのちのちまで影響するため最初が肝心です。

資本政策の検討にあたっては、目の前の資金調達のラウンドだけではなく、将来のM&AやIPOまでの間の資金調達の可能性含めて、その時点から逆算して計画を立てることが重要です。

例えば、IPOを出口とするのであれば、その時点から逆算して資本政策を考えることが必要があります。

  1. IPOまでに、「いつ」「いくら」調達する想定か
  2. IPO時点での自らの持株比率をどうしたいのか
  3. その前提を元に、各資金調達の段階でのバリュエーション(企業価値と株価)はどうあるべきか
  4. そのようなバリュエーションを投資家に提案できる事業計画はどうあるべきか

これらの項目を細かく検討しながら、自らの会社にとって一番良い資本政策を検討していきます。また、将来の資金調達の可否は、その後の事業の進捗や事業環境に大きく左右され、不確定要素も多いため、楽観的なシナリオから最悪の事態まで想定し、いくつかの資本政策を策定しておくのが賢明と言えます。

komon5000