スタートアップやベンチャー企業が起業時に法律で失敗するケース10選

スタートアップ・ベンチャー企業の設立時に必要な法律

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スタートアップやベンチャー企業は、どんなことで失敗するのか

私たち(グローウィル国際法律事務所)は、たくさんのスタートアップやベンチャー企業の相談を受けています。

そのような中で、会社の起ち上げ時期に、制度設計を失敗したせいで、ビジネスで苦労することになるスタートアップやベンチャー企業をたくさんみてきました。

そこで、今回は、スタートアップやベンチャー企業が、起業時に失敗するケースをみていきます。

1)設立時の発行株式数が少なすぎる

設立当初は株主が少ないゆえに「100株くらいの発行で全ての株主に行き渡るからいいだろう」と考えがちで、そんなケースを少なからず見てきました。

しかし、ベンチャーは成長にしたがい資金調達を株式発行により行ったり、ストックオプション発行を行ったりすることが一般的です。

たとえば、100株のみの発行だと、以下のような問題が起こります。

  • ベンチャーキャピタル(以下VCとします)の持株比率を細かく設定ができない
  • 発行済株式総数の1%分以上でしか従業員にストックオプションを付与できない

このような場合、株式数を増やすために株式分割をします。

しかし、株式分割をするには株主総会や登記手続が必要となり、余計なお金と時間がかかってしまいます。そのため、設立当初から株式の数をある程度多めにしておくといいでしょう。

株式分割の手続きについては「スタートアップやベンチャー企業が株式分割をする手順と注意点」を参照してください。

2)創業者の持株比率の設定での失敗

複数の友人で創業し、同じ数の株式を持つのは、典型的な失敗例の1つです。

創業メンバー全員が同数の株式を所持することは普通のように感じられるかもしれませんが、このことで円滑な意思決定が難しくなってしまうことがあります。

投資契約等の当事者となる代表者は通常株式を売却できない上に、様々な制約が課されます。そのため、その責任に見合うだけの株式を代表者が多く持つことは不公平ではありません。

さらに代表者は通常株式を売却することが難しいため、上場時などの安全株主対策として株式を代表者に集中させておくと良いでしょう。

以上のことから、創業時に将来的な資本政策のことまで考えて、持株比率を設定するのがよいでしょう。

加えて創業メンバーの持株比率は大きいので、創業メンバーのうち、誰かが抜けた場合に残るメンバーに株式を譲渡するように、創業者株主聞契約を結ぶのがいいでしょう。

関連記事:創業株主間契約を結ぶ際に気をつける3つの法的ポイント

3)初期に株式を第三者に多く割り当ててしまう

これはやってしまいがちですが、下手をすると致命傷となってしまう問題です。

単独で決定できる内容が持株比率によって変わったり、持株比率の低下と引き換えにベンチャーでは多くの資金を調達したり、重要な人材を採用するためにストックオプションを発行することが一般的なため、起業家にとって株式の持株比率というのはきわめて重要なものです。

「初期に株式を第三者に多く割り当ててしまう」原因としては、以下のようなことが考えられます。

  • 持株比率についての実務感覚や他社事例を理解できていない
  • 出資者が元上司などの恩人の場合遠慮してしまい、株を余計に付与してしまう

一度、株式を与えてしまうと後から、譲渡してもらうことは、非常に困難です。第三者に株式を譲渡する場合には、慎重にするようにしましょう。

4)最初の資金調達の際にしっかり条件交渉をしない

資金調達をVCや事業会社等からする場合、投資契約(投資についての条件を定めるもの)や株主間契約の締結を求められるのが一般的です。

また、最近では、優先株式(種類株式)による資金調達も、かなり普及してきています。

基本的に投資契約などは起業家に対し様々な義務を課すことになるため、契約の際に弁護士にリーガルチェックをしてもらうべきです。

しかし、リーガルチェックなしで最初の資金調達の投資契約等を結び資金調達が行われている例を少なからず見かけますが、これはとても危険な行為です。

リーガルチェックを頼まない理由としては、以下のようなものが考えられます。

  • 最初の資金調達は調達金額がそれほど大きくないためコストを出来るだけ低くしたい
  • 契約相手との関係もあり投資契約等を弁護士に見てもらうと言い出しにくい
  • 単なる知識不足

しかし、VCや事業会社等は一般的に投資契約書等のひな型を用意しており、資金調達の際にそのままひな型が提示されることもありますが、それを自社として受け入れてよいかは慎重に検討しなければなりません。

当たり前ですが、当該契約書は、VCや事業会社に有利なように作成されています。

本当に、自社にとって、大丈夫な条件は、よく確認する必要があるのです。

5)ストックオプションの発行での失敗

豊富な資金がないベンチャーにとって、ストックオプションは採用のための強力な武器となります。

ジョインした時期や付与された個数によっては、従業員でも億単位の金銭を受け取ることが可能な場合あり、現金で支払う給与額では採用できないような優秀な人材を採用するための手段の1つとなります。

このストックオプションを発行の際に失敗してしまうと大変なことになるため、以下のことに注意しましょう。

場合によっては税額が数千万単位で変わる

役職員に発行する場合には、適格ストックオプションの要件を満たすことが必須です。

適格と非適格では、税額が数千万単位で変わってしまう場合があるため、最優先で確認しなければなりません。

長期的な観点に立って発行する個数を決める

一般的に上場時に発行済株式総数の10%以内にストックオプションが収まっていることが望ましいとされています。

10%に収まらなかったからといって、上場できなくなる訳ではありませんが、上場できたとしても希釈化されるリスクがあるとして時価に悪影響を与えてしまいます。

そのため、上場時から逆算をして誰にいくつのストックオプションを付与するかを慎重に検討しなければいけません。

COO・CTO・CFOなどの幹部を雇う場合、ある程度のストックオプションを求められるケースが多いため、これらのポジションの採用が終わっていない場合はストックオプションの枠をしっかり残しておきましょう

6)定款の更新をしない

定款を公証人に認証してもらい法務局することが会社設立の際に求められるため、全ての会社が定款を作成してあるはずです。

その定款を会社設立後に適切に更新していない会社を少なからず見かけます。

資金調達等の際に提出を求められた際に、定款を適切に更新していないと焦ることになるため、発行株式総数・役員数・任期の変更など定款を変更した場合には都度wordファイルを更新する必要があります。

設立を専門家に依頼した場合に、PDFファイルだけ受け取りwordファイルをもらわない会社も見かけます。

しかし、定款の内容は常に最新のものに更新しておく必要がありますため、wordファイルも忘れずにもらわなければなりません。

7)商標の取得をしていない

商標は極めて重要なものなのですが、適切なタイミングで商標を取得出来ているベンチャーは多くありません。

IPOが迫った時点で、他社に自社のメインサービスの商標が取られていたことが発覚した場合、IPO審査で由々しき問題と捉えられる可能性があります。そういったトラブルを避けるためにも、早めの取得を検討したほうがいいでしょう。

8)従業員の雇用に関する手続を履行していない

労働契約を結ぶのに当たり、法所定の労働条件を明記する必要が労働基準法上あり、これを行わなわなかった場合は罰則の対象となります。

雇用に関する必要な三六協定の締結・届出や就業規則の策定等の手続をきちんと行っていないベンチャーを多く見かけます。

労働基準法上必要な手続きは、参考にきちんと履行しておきましょう。

9)違法な従業員の解雇

従業員を「クビ」にするにはそれ相応の理由が必要であり、勤務態度などを理由にした解雇は、原則として法律上認められていません

労働契約法6条では「解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。」と定められている上、日本の裁判実務上、解雇が認められるのはとても難易度が高いのです。

もし解雇無効が裁判で確定した場合には、以下のような義務が生じてしまうため、従業員をクビにしたい場合は解雇する前に弁護士等の専門家に相談したほうがいいでしょう。

  • 当該従業員を雇用し続ける義務が生じる
  • 従業員が勤務していなかった期間の賃金の支払義務
    「期間」は、解雇の有効性を裁判で争っている期間も含まれます

10)種類株主総会決議を忘れる

優先株式(種類株式)がベンチャーへの投資手法として使用されることが最近非常に増えており、特に億単位の投資案件では種類株式での投資がとても多く見受けられます。

種類株式全般については第V章をご参照していただきたいのですが、ここではミスしやすい種類株主総会決議を取り上げます。

種類株主総会決議とは?

種類株式の発行後に一定の行為を行う場合に要求される、A種優先株式や普通株式などの特定の種類の株式の株主のみで構成される決議のことです。

この種類株主総会決議を忘れてしまうと、会社の行為が無効となる可能性があります。

種類株主総会決議が要求されるのは?

  • 種類株式の内容として拒否権を定めた場合
    内容をVC等の投資家と協議のうえ定めるため、種類株主総会が必要なことを会社が認識している
  • 会社法上規定されている場合
    定款に種類株主の内容として明示されていなくとも、種類株主総会が必要となるため忘れてしまわないように気をつける必要があります

特に、重要なポイント

「株式の種類の追加」、「株式の内容の変更」、「発行可能株式総数または発行可能種類株式総数の増加」が種類株のファイナンスの際に行われることが多いため、普通株式の種類株主総会を含む存在している全ての種類株主総会が必要となります。

また、株式やストックオプション(新株予約権)を発行する場合に、当該株式または新株予約権の対象となる株式と同じ種類の種類株主総会が必要となります。

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